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2020.06.26
食・運動・健康

もっとアクティブに生きるためのスポーツ栄養学

子育て中のお母さんに活用して欲しい栄養知識とは

 

月野和 美砂 (つきのわ みさ)

管理栄養士

日本スポーツ協会公認スポーツ栄養士

日本スポーツ協会公認バレーボールコーチⅠ

中学高校教論一種免許(家庭・保健)

【ジュニアアスリートを育てる忙しいママ・パパを支える公認スポーツ栄養士「つっきー」のブログ】

今回、「スポーツする子のための差がつく食事」をご出版された管理栄養士・公認スポーツ栄養士の月野和美砂先生にジュニアアスリートに必要な栄養についてお話を伺ってきました。先生は神奈川県の高校に25年間勤務。家庭科の教員として、またバレーボールのクラブチームで関わった多くの成長期の子供たちの実状や実体験、そして今後の課題についてわかりやすくお話して下さいました。

横内:はじめに本をご出版された経緯について教えてください。

月野和先生:今回、コロナの影響でスポーツの大会が全てなくなり、練習もできない、試合もできない、そして目標もないという状況になった瞬間、私が書いているスポーツ栄養のブログがほとんど読まれなくなりました。スポーツ栄養はこのような非常事態に何の役にも立たないことにとても落ち込みました。そんな時にたまたま以前私のセミナーを受講して下さったバレーボールをしている高校2年生のお子さんを持つ方から連絡がありました。内容は『関東大会もインターハイもなくなるという状況の中、本人は監督からトレーニングメニューを出してもらって何とかモチベーションを維持しようと自主トレーニングをやっています。親としてやってあげられるのは食事作りしかありません。食事で体づくりができるような内容を知りたい』というものでした。大会がなくなっても踏ん張っている子供たちがいっぱいいる中で、それを支えようとしている親がいる。私はそのお母さんたちの食に関わるサポートができることに気づかされました。そこから火がつき本の出版に至りました。

横内:スポーツ栄養とはどのような特徴があるのでしょうか。

月野和先生:例えばトップアスリートと一般の人をイメージしていただくとスポーツ栄養は理解しやすいと思うのですが、スポーツ少年団のお子さんや部活動をしている中学生などではスポーツ栄養の明確なラインがわかりにくいかと思います。今まで“栄養”というと病気にならないため、もしくは体調を崩したときにそれを回復させるためなど、マイナスをゼロに戻すために必要なものだったのですが、スポーツ栄養は今の体をより強くするため、そしてもっと活動量を増やすためといったアクティブに生きて行くための栄養学なのです。

横内:スポーツするにあたりケガはつきものです。本の中で「ケガをしたときに栄養がとれているかがわかる」とありますが、もう少し詳しく聞かせてください。

月野和先生:中学、高校の6年間かかわった選手たちがいます。夫と共にバレーボールをみてきた子供たちで、私も高校で関わったのですが、その子供たちは中学の段階で既に栄養指導も行いバランスのよい食事をしていました。その 中のひとりが高校生のとき、練習中に足首を大きくひねり靭帯損傷する大怪我をしてしまいました。すぐに接骨院の先生のところへ運び、そこから治療を開始していただいたところ、1ヶ月半ほどでリハビリに入り、3ヶ月くらいでほぼ元の状態になり、最終的には4ヶ月ほどで治りました。整骨院の先生は国体で柔道のトレーナー経験のある方だったのですが、後にその先生から「今までこの怪我で引退してきた柔道選手を何人もみてきた。あの子の回復力はまるでトカゲのようだ!」と聞かされました。私はこのようなひどい怪我に遭遇したことがなかったので他の比較対象がありませんが、その子の食事がもの凄く整っていたことが印象に残っています。この経験から、食べものがきちんとしていると怪我をしたときの回復に大きな違いが出るのだと実感しました。

宮嶋:お話の中で“食事が整っている”とありましたが具体的にどのようなことでしょうか。

月野和先生:ご飯などの主食、肉や魚、たまごなどの主菜、野菜やきのこや海藻などの副菜、チーズや牛乳などの乳製品、果物の5つのお皿がいつも並ぶ食事のことをいいます。

宮嶋:栄養指導を中学校からやるというのは食事を作る親ではなく子供に理解させるのでしょうか。

月野和先生:私は選手にやっていました。当時は1泊2日の合宿を年間5、6回ほどおこなっていて、夜は必ずミーティングをしていたのですが、その時にバレーボールのルールや心構えはもちろんのこと、食事についての話をする機会を作っていました。

宮嶋:子供たち自身にどこの段階で栄養の大切さを理解させるのかというところが重要だと思うのですがいかがでしょうか。

月野和先生:その通りだと思います。実際に日本では小学校5年生から家庭科教育がはじまります。中学校、高校でもあるのですが、授業と実生活が結びついていないと感じています。家庭科教員だった私自身も悔しいのですが、テストが終わったら忘れてしまうといった感じです。そういった意味ではバレーボール合宿で子供たちに食事の話ができたことは私にとっても大変よい経験になりました。当時の教え子のひとりが『あの時に教わったことが今の私の作る食事のベースになっている』と言ってくれていてとても嬉しいです。

横内:今後は子供たちに栄養の大切さを実生活において理解してもらい、その子供たちが親になってそれを子供に伝えていくといった好循環を築くことが大切になってきますね。

月野和先生:そうですね。私がこれから先も関わる中学、高校の部活動あるいはクラブチームの子供たちにとってのスポーツ栄養とは、自分が大好きな競技をもっとうまくなるためにご飯をきちんと食べよう、嫌いな野菜も食べようといった感じで使うのが一番よいのではと思っています。

横内:本の中でとても印象的だったのが“戦略的に補食をとるように”とありましたが、もう少し具体的に教えて下さい。

月野和先生:リカバリーとしては糖質があれば疲労回復が早くなります。練習が終わった直後から30分以内が一番よいタイミングで、少なくとも2時間以内にとることをおすすめします。

横内:ジュニアアスリートにとって鉄分摂取もとても大切ですね 。

月野和先生:はい。身長が伸びる、体重が増えるなどの成長期には意識的にとった方がいいです。教え子や私自身も経験したことがあるのですが、ひどい貧血になると氷食症という症状があるということを最近知りました。これはあるシンポジウムに参加した時に話題に上がっていたのですが、ひどい貧血になると無性に氷が食べたくなるというもので、古代の人間は砂や石などをかじってミネラルをとっていたなごりではないかとのことです。このようになる前に身長が伸びはじめたらまず食事による鉄分摂取を心がけて下さい。

宮嶋:欧米では貧血はほとんどないといわれています。特に東欧では内臓料理がとても多く感じましたが、日本でもアスリートはレバーなどの内臓を食べるといった意識改革をしていかないといけませんね。

月野和先生:そうですね。アスリートは普通のヘモグロビン値よりもちょっと高くないといけないと言われています。一般的には血液1dl中に12gのところ、アスリートは13g以上が求められます。鉄分は吸収率が大変低いのでレバーやあさりなどを積極的に摂ることが必要です。

宮嶋:アスリートの栄養のポイントは鉄とたんぱく質でしょうか。

月野和先生:そうだと思います。

宮嶋:この本の中で一番伝えたいことはどのようなことでしょうか。

月野和先生:当たり前である食べることをもう一度見直して欲しいということです。スポーツを通して親が子供のためにどのような食事をさせたらいいのかを勉強し、更に家族全員の食事がよいものになっていく。これが健康につながると思います。

宮嶋:この本は中学生、高校生が読んでも大丈夫でしょうか。

月野和先生:中学生、高校生が読んでもわかる内容だと思います。本を買ってくださった方の中で子供に読ませたという話を聞いています。

横内:最後に多くの親御さんが聞いてみたい質問のひとつ、“身長を伸ばす食事”について教えて下さい。

月野和先生:この内容について説明すると1時間以上かかってしまうのですが、簡単に言うと骨を伸ばすために必要な栄養素はたんぱく質です。牛乳を飲むイメージがあると思いますが、カルシウムは骨を強くするために必要なものであって伸ばすためのものではありません。たんぱく質をしっかり摂ることが大切です。そして、食事以外では睡眠も重要です。今回のコロナの影響で今まで練習し過ぎていたジュニアアスリートが十分な睡眠をとれるようになったことでこの期間に身長が伸びている子がいると思います。

横内:なるほど。たんぱく質摂取と睡眠がポイントですね。本日はたくさん学ばせていただきました。長時間ありがとうございました。今後のご活躍を楽しみにしております。

【取材後記】

現在、日本の家庭科教育では小学生は赤黄緑の3食品群のみ、中学生は学校によって一切調理実習をやらないところもあり、高校生は今の20代から下は家庭科の単位数が半減し、食物については年間10時間ほどしか学べないということもざらにあるそうです。これにより今後ますます栄養も調理もわからない、生活経験もない人が親になっていきます。月野和先生はそのような親御さんを対象にセミナーを開催していきたいと語ってくださいました。私もアスリート時代は怪我をしてはいけないという理由で包丁を握ったことがありませんでした。しかし現在は双子の母として栄養バランスを考えながら日々の食事作りに奮闘しています。苦手でも積み重ねていけばかたちになることを実感し、そして家族が美味しそうに食べてくれる姿にアスリート時代とは異なる喜びを感じています。今回の取材、そして月野和先生の本から学んだことを日々の食事作りに生かしていきたいと思います。

横内由可プロフィール

器械体操・クレー射撃の元日本代表

段違い平行棒の降り技で新技に挑戦し、後に「ARAI」というD難度の技が誕生 (ARAIは横内由可の旧姓)

現在は企業専門パーソナルトレーナー

2019年に双子を出産

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