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2020.12.22
スポーツ・芸術・文化 世界の国から

コロナ禍のスポーツ事情〜ブラジル編〜

ブラジルの今

ブラジルのコロナウィルス累計感染者数はアメリカ1700万人、インド990万人に次ぐ700万人で世界で3番目に多い国となっており、累計死者数はアメリカの31万人に次ぐ18万人を超え、2番目に多い国となっています(12/18時点)。1日あたりの新規感染者数は約5万人で日本の約3000人と比較するとやはり感染が広がってしまっている現状がわかると思います。

現在私が住んでいるリオデジャネイロでは近所の友人などの間でも感染者が多く、「コロナ感染」という言葉がとても身近になっています。ですので感染対策をしつつも、もはやそれだけで感染を防ぐことは難しく、むしろ感染して症状が出たときのための準備(医療機関の確認など)をしたり、健康な体を作っていくしかないよね、という感覚の人がとても多いです。しかし、それはある意味経済的にまだ余裕がある人間の感覚であり、「シンデミック(syndemic)」という言葉があるように、貧困層は満足な医療が受けられなかったりする格差問題は残酷なほど明らかです。

子どもを取り巻く環境も厳しくなっています。公立学校は3月から現在に至るまで休校しています。我が家の3歳と6歳の子どもたちが通っている教育機関も3月からずっとお休みのままクリスマス夏休みに入ってしまったので、来年の2月までは最低でもこの状況が続く見込みです。

スポーツ事情

そんな状況でしたので3月から外出規制や自粛が続き、スポーツをするといえばランニング程度のもので、子どもの遊ぶ公園までも使用できなくなっていました。ただし、7月ごろから少しずつ規制が解除されていったので、私が知りうる範囲でどのようにスポーツが行われていたのかをお伝えいたします。

その1)トップアスリート

ただ、トップアスリートの活動はなかなか元に戻りませんでした。練習施設が閉鎖されたままであったり、練習相手が必要な場合は合同で合宿する必要があるもののブラジル国内ではそれができるような状況ではありませんでした。そこで、ブラジルオリンピック協会はあるプロジェクトを企画します。それは、いくつかの競技の選手をポルトガルに派遣し、そこで長期間合同合宿をするというものでした。参加したのは柔道、水泳、陸上など18競技で合計200人弱の選手が前例のない一大プロジェクトにのぞみました。

私の妻がブラジル男子柔道代表監督としてこの遠征に同行したので、彼女に詳細を聞いてみました。

「出発前にPCR検査を1回、ポルトガル到着後に1回、その後は2週間に1回しながら合宿を行いました。柔道は合計10週間滞在してその間1人も陽性者が出なかったが、もし出た場合の隔離方法などは事前に確認できており、不安はなかったです。合宿地となったコインブラという地域ではほとんど感染者がいなかったものの、選手たちはホテルと練習会場及び週に一度だけスーパーに買い出しに行くだけで、行動範囲は厳しく制限されていました。しかし、柔道ができるだけでも恵まれているという感覚をみんな持っていたので、そこまでストレスは感じていませんでした。」

<遠征中に誕生日を迎えた際にお祝いしてもらったときの様子だそうです>

ポルトガルから帰国し、10月からはブラジル国内で合宿をすることができるようになりました。

その2)一般の大人

意外と知られていない事実が「アメリカの次にフィットネスジムが多い国はブラジル」ということです。しかし、今までジムで汗をかいて運動不足を解消していた人がコロナの影響でジムに通うことができなくなってしまいました。そこで、屋外でダンベルなどを使ってトレーニングができるサービスを提供する光景がいたる所で見られるようになったのです。

そして、規制が緩くなるにつれて屋内のジムも利用できるようになりました。しかし、利用方法は通常とは異なります。換気や消毒をするのはもちろんですが、携帯電話アプリを使ってジム利用予約をとり、混雑による感染リスクを減らす対策が取られています。写真内に赤線で囲った部分があります。これは12:00-12:50の時間帯は43人が最大利用可能人数であり、現時点で6人が予約済みであるということを意味しています。


また、ブラジルといったらサッカー、という印象もあるかと思います。近所でもたくさんサッカーグラウンドがあり、平日の夜、週末は朝早くからボールを蹴る大人たちの姿が見られます。コロナの影響でそうした施設も使用禁止になっていましたが、7月頃から解禁になり、ちょっとした大会なども開催されるようになってきました。

<私も大会に参加しました。気持ちは日本代表です。>

その3)子ども

上述したとおり、休校になる教育施設が多いだけでなく公園の遊具なども使用できない日々が3月から続きました。子どもがスポーツをする機会は種目にもよりますが、段階的に様子を見ながら始まっていきました。中でもサッカー・フットサルは早く再開されましたが、かなり手探りで活動内容も普段とは大幅に変更して接触が増えないように注意をしていました。ただ、さすがブラジル、10月ぐらいになるともう公式戦が始まり息子も参加するようになりました。

<赤ユニフォーム左側が息子です>

屋内で行う柔道教室も少人数で開始しました。密着せざるを得ない乱取りなどの練習はやらず、受け身などの基礎的な動きをメインに活動しています。こちらはフィットネスジムと同様に、携帯アプリで予約することで混雑しないように工夫されています。

ブラジルの文化であるカポエイラ教室についてです。ブラジルの学校では授業の後のアクティビティとしてカポエイラ教室があることが多いのですが、休校によって指導する場を失ったカポエイラ講師が屋外で指導するようになりました。子どもを楽しませるのがとても上手で、我が家の息子たちは初体験だったのですがとても楽しんでいる様子でした。

このように、様々な形で子どもたちが楽しく体を動かす機会が増えてきたブラジルではありますが、今この記事を書いている段階(2020年12月)で再び感染が広がりつつあり、規制が強化されることになりました。今後、どこまで厳しくなるか全くわかりません。しかし、3月以降の自粛期間に学んだことがあります。それは、子どもは自分自身で楽しく遊ぶことを探す力があるということです。この写真は、学校も公園も習い事も休止中で、近所をぶらぶら散歩をしていたときのものです。どこにでもいるような野良猫を追いかけ始め、毎日通うようになり、だんだんお互いに慣れ、だっこさせてようになっていったのです。はじめは、何が楽しいのかなと思いつつも夢中で猫と戯れている様子を見て、親としては「時間稼げてラッキー」ぐらいの心持ちでした。しかし、大事なことに気づいたような気もするのです。それは、いつのまにかに無い物ねだりをする習慣がついて、身近にある大切なものが見えにくくなっていたのではないかということです。子どもが楽しい、夢中になっているならそれが一番じゃないですか。そしてそれは文字どおり道端に転がっている。そんな心持ちでいられれば、この先コロナで思うようにいかないことがあっても、親子共々楽しく過ごせるのかなと考えています。

筆者プロフィール

藤井陽樹

2013年に妻の仕事の関係で教員を退職し、ブラジルに渡る。以後、専業主夫として二児の子育てに奮闘する毎日が続く。妻の藤井裕子は、女性初となるブラジル男子柔道代表の監督として東京五輪を目指している。

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