女性スポーツ勉強会#23 コウノトリが運ぶ組織改革 兵庫県豊岡市に学ぶ

2026年2月11日 水曜日祝日 東京ウィメンズプラザホール
概要
本講演は、「目からウロコの女性スポーツ勉強会」の第34回として開催され、スポーツ、ジェンダー、地域創生をテーマに多角的な議論が展開された。
前半では 主催のカルティベータ宮嶋泰子が過去の勉強会の歩みを振り返り、女性アスリート特有の課題やキャリア形成について問題提起を行った。
続いて、元豊岡市長の中貝宗治氏が、兵庫県豊岡市における「コウノトリ野生復帰」プロジェクトを軸に、環境と経済を両立させ、多様性を受け入れるまちづくり「環境経済戦略」を詳述。特に、人口減少、中でも若い女性の流出という課題に対し、ジェンダーギャップを根本原因と捉え、演劇教育や職場改革を通じた解決策を提示した。
さらに、中田工芸の中田修平氏が、地方中小企業の視点からジェンダーギャップ解消への具体的な取り組みと、それが企業成長に繋がった事例を紹介。
後半では、豊岡とスポーツについて上治丈太郎、橋本聖子氏、有森裕子氏、菊光一氏らが登壇。スポーツが持つ社会的価値に焦点を当て、ホストタウン構想、男女混合競技、スペシャルオリンピックスなどの事例を通じて、スポーツが多様な人々が共生し、誰もが自己実現できる社会を築くための強力な手段であることが強調された。支援のあり方として「for(~のために)」から「with(~と共に)」への転換が重要であると結論付けられた。
イントロダクション カルティベータ代表宮嶋泰子から

主催者カルティベータ代表宮嶋泰子から、これまでの女性の身体や女性を取り巻く環境等を振り返り、23回目の今回は、どうすれば女性への差別や壁を取り除けるのか皆さんと一緒に考えていきたいとテーマ説明が行われた。
1. 豊岡市のまちづくり戦略 元豊岡市長中貝宗治氏

*コウノトリ野生復帰と環境経済戦略:
農薬による絶滅から野生復帰を果たしたコウノトリの事例を通じ、「コウノトリ『も』住めるまちづくり」という理念を提唱。これは、多様性を受け入れ、新たな価値創造の基礎とするまちづくりに繋がる。
農薬に頼らない「コウノトリ育む農法」は、当初の農家の反発を「対話」で乗り越え、作付面積507haを達成。生産された米は国内外で高い評価を得ている。
環境を良くすることが経済を活性化させる「環境経済戦略」を掲げ、環境活動の持続可能性を確保している。

*ジェンダーギャップという「第3の壁」と対策:
若い女性の市外流出が顕著である原因を、経済的・文化的魅力の欠如に加え、女性特有の壁である「ジェンダーギャップ」にあると分析。
豊岡市の50代の収入格差(男性480万円に対し女性251万円)などの現状が、高等教育を受けた女性たちの「静かな反乱」を招いていると指摘。
この問題を政治的・経済的リアリズムの問題と捉え、経済担当部署が主導して企業・職場改革に着手。経営者セミナーや女性リーダーシッププログラムを実施し、131の事業所が連携している。
* 演劇と文化による魅力創出:
平田オリザ氏主導のもと、市内小中高校で演劇の授業を導入し、他者への想像力やコミュニケーション能力を育成。
芸術文化観光専門職大学の設立や「豊岡演劇祭」、アーティストが滞在制作する「城崎国際アートセンター」などを通じ、「小さな世界都市(Local & Global City)」を目指している。
ジェンダーギャップ解消への取り組みの結果、移住者の男女比に変化が見られ、女性の移住者が男性を上回る兆候が出始めている。
2. ジェンダーギャップ解消と企業成長の実践 中田工芸株式会社社長中田修平氏

経営者の意識改革と6つのステップ:
中田工芸の中田修平氏は、豊岡市の「ワークイノベーション」施策と連携し、経営者自身がセミナーに参加して意識改革を行うことから始めた。
「経営者→人事→管理職→女性従業員の意識改革」とステップを踏み、最終的に先進事例として発信することで波及効果を狙う。
宣言と人材登用:
「ハンガーで世界一を目指す」と宣言することで、意欲ある人材(特に女性)が集まり、海外進出が加速。イギリスのチャールズ国王へのハンガー献上といった成果も生まれた。
成功の鍵は、性別やキャリアではなく「やりたい」という意欲を持つ人に任せ、経営者が環境整備と最終責任を負うという役割分担を明確にしたことにある。
働き方改革と評価制度:
カバンメーカー「由利」では、残業ゼロを目指し、工程の標準化やチーム制を導入。結果、男性優位の根拠であった「残業ができること」がなくなり、女性管理職比率が54%に向上した。
中田工芸では、売上連動型から「行動評価」へ転換。「正しい行動が良い結果に繋がる」という考えのもと、離職率低下と業績向上が実現した。
ボーダーレスな組織文化:
経営資源は「ヒト」が最優先であるとし、性別、世代、国籍、障害といった垣根(ボーダー)のない組織を目指す。これが新たな企業価値創造と採用力の強化に繋がっている。

<チャールズ国王に献上した名入りハンガー>
3:豊岡市とスポーツ 2020東京オリパラのボート事前合宿 元ミズノ株式会社副社長上治丈太郎氏
豊岡市が東京オリパラの事前合宿地としてドイツ・スイスのボートチームを受け入れた事例は、子どもたちに「本物」を見せる最高の教育となった。豊かな自然環境(円山川)が評価され、地域の魅力を再認識する機会にもなった。
橋本聖子JOC会長は、この豊岡の取り組みを未來にわたる国際人養成につながると語る。


4:男女共同参画とスポーツを考える 橋本聖子JOC(日本オリンピック委員会)会長
スポーツが持つ社会的役割: スポーツは勝ち負けだけでなく、フェアネスやウェルビーイングを社会に問いかけ、多様な人々が共生する社会を築くための強力な「手法」である。
「スポーツが」ではなく「スポーツも」という謙虚な視点を持つことで、スポーツは環境問題やジェンダーなど、より広い社会的文脈の中で多様な価値を持ち始める。
多様性と共生の具体例:
男女混合競技 : アーティスティックスイミングや陸上混合リレーなど、男女が互いをフォローし合いながら結果を出すプロセスは、社会を切り開く力を持つ。
ご自身の息子に子供ができたことを披露しながら、育児を楽しみながら勤しむ男性の気持ちも昔と変わってきているのではないかと発言している。

5:スポーツが持つ力をマラソンメダリスト有森裕子氏に聞く

カンボジア支援
マラソンが持つ「誰もが参加できる」特性を活かし、アンコールワット国際ハーフマラソンを創設。さらに、、NPO法人ハートオブゴールドで体育教育のシステムを国に導入させ人づくり(ソフト支援)を通じて国の発展に貢献した。
スペシャルオリンピックス理事長を務めた経験から、 知的障がい者(アスリート)と健常者(パートナー)が共にプレーする「ユニファイドスポーツ」を推進。支援のあり方が「for(~のために)」から「with(~と共に)」へと変化し、誰もが対等なパートナーであるという共生の考え方を広めている。
障がい観の転換:
障がい者を「disabled people(できない人々)」ではなく「people with special needs(特別なニーズを持つ人々)」と捉える視点が重要。
健常者もいずれ加齢により不自由さに直面するため、障がい者は「未来の自分たちの姿」であり、彼らを考えることは自分自身を考えることに繋がる。
6:まとめのディスカッション(中貝宗治氏、中田修一氏、有森裕子氏、菊幸一氏、宮嶋泰子)
1. 自身の組織におけるジェンダーギャップの現状を分析し、解消に向けた具体的な行動計画を立案する。
2. 豊岡市の「環境経済戦略」や企業の働き方改革事例(由利、中田工芸など)を参考に、環境と経済、働きやすさと生産性の両立を目指す。
3. スポーツが持つ社会的価値(多様性、共生、国際交流)を認識し、学校体育や地域活動に活かす方法を検討する。
4. 障がい者支援や多様性に関する議論において、「for(~のために)」ではなく「with(~と共に)」の視点を持ち、対等な関係性を築くことを意識する。 5. 紹介された書籍(『但馬コウノトリの郷 暮らす町』、『演劇はまちを変えるか?』、『豊岡メソッド』、『小さな行政組織のつくる未来』など)を読み、取り組みへの理解を深める。

7:女性スポーツ勉強会#23を終えて
女性スポーツの役割が明確化した勉強会だった。家父長制がまだ強く残る日本の地方都市なども視野に入れて、社会で女性が担うべく役割をスポーツを通じて社会を変えていくことが可能であることがよくわかった。「も」の発見、「for からwithへ」が示す考え方の転換も重要だ。
ミラノ・コルツェナオリンピックで注目を浴びたりフィギュアスケートのくりゅうペアではないが、それぞれの役割を男女が共に社会の中でしっかりとこなしていくことの大切さが改めて理解できたように思う。


この事業は公益財団法人JKAの公益補助事業として行われました。



