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開催レポート

2020年2月22日開催
第15回女性スポーツ勉強会より 報告 その3:田知本遥さん編

第15回女性スポーツ勉強会のテーマは「2020オリンピック・パラリンピックイヤーだからこそ考えよう。スポーツにできること」というものでした。

ご登壇いただいたのはSDGsの専門家でいらっしゃる田瀬和夫さん、IOC(国際オリンピック委員会)とIPC(国際パラリンピック委員会)で教育委員を務める長野パラリンピックアイススレッジ金メダリストのマセソン美季さん、リオデジャネイロオリンピック柔道金メダリストで現在筑波大学大学院を卒業された田知本遥さん、産婦人科のスポーツドクター高尾美穂医師、そして総合コーディネータはカルティベータ代表理事の宮嶋泰子でした。
シリーズで、この勉強会の概要をお伝えしています。

第三回は田知本遥さんによる「金メダル競争から経験する「つながり」の価値」です。

リオデジャネイロオリンピックで壮絶な優勝争いの結果、金メダルを獲た田知本さんの言葉だけに、スポーツはいかに人類に貢献できるのかということを考える意味でも有意義でした。
経済も社会も同じで、「勝ち」だけを考えていてはそこにはもはや「価値」は見いだせない世界になってきていることを強く感じさせる講演でした。

田知本 遥

富山県射水市出身の日本人の女子柔道家。階級は70kg級。身長167cm。

富山県小杉高校から東海大学に進学。2012年ロンドンオリンピック7位 2013年から綜合警備保障の所属となり2016年リオデジャネイロオリンピックで金メダル獲得。引退後、筑波大学大学院に進学し菊幸一氏に師事。2019年3月大学院の専攻長TOP賞を受賞して卒業。2020年は英国留学の予定。

金メダル競争から経験する「つながり」の価値というテーマで話をします。
柔道家として2度のオリンピックを経験した中で、このテーマを用意してきました。

一枚の写真

「勝ち」。この言葉、競技者として当たり前のはずせないキーワードであり、これを日々自分の中に一番において生活してオリンピックという道をたどってきました。

2016年8月10日のリオデジャネイロオリンピックの試合終了後、同じ階級のメダリストと一緒に写真を撮りました。これからメダルが授与されるというときに撮ったものです。

私はこの写真が一番気に入っている。このひと時だけは、メダルの色は置いておいて、一緒に戦って称えあったひと時で、一番印象に残っている時間でした。友人からは戦ったあとによくこんなに肩寄せ合って笑顔で写真が撮れるねっと言われたこともあります。

ロンドンオリンピックでの敗退

彼女たちとのプロセスがどんなものかをロンドンオリンピックまで記憶をさかのぼっていきます。
私が初めてオリンピックを経験した2012年の22歳で準々決勝で中国の選手に負けて敗退。さらに大きな怪我をしてしまいました。

当時の私は勝つことだけがすべてだと思って競技に挑んでいた。
そして負けてしまい、価値がない存在だと思ってしまっていた。
余談ではあるが空港について、メダリストとそうでない選手では出口が違っていることに戸惑ったが、そういうもんなんだなと思わされた経験でした。

今振り返ると、柔道イコール勝つ、スポーツイコール勝つということしか頭にありませんでした。狭い世界で柔道をやっていました。それから2年間スランプに入りました。

イギリス留学で知った新たなスポーツ観

そのさらに2年後、2014年に競技人生で大きな転機を迎えます。イギリスに1か月武者修行をし、その経験は驚きの連続でした。これまで日本でやってきた環境とは違いすぎた。選手が自発的に柔道を取り組んでいて意気揚々としている。自分で考えて練習を取り組んでいいんだとひらめいたのです。柔道をする中で試合に出て勝ちを求めるだけではなく、自分で工夫して、量より質を求める練習をすることを初めて経験しました。

さらに、一人のイギリスの選手から声を掛けられたことをきっかけに、これまでのライバル選手から仲間となりました。1か月の滞在中、親切にしてくれて、いろいろなところへ連れていってくれ、自分にしてくれたことに感謝しました。彼女から新しいライバル観を教えてもらえたように思います。

帰国してからも、積極的に海外との選手と交流を好むようになりました。

リオデジャネイロオリンピック本番での経験

このような経験を経て迎えたリオデジャネイロオリンピック。このときに決勝で対戦したのは写真に一緒に写っているコロンビアの選手です。勝った私に対して、試合後、ハグしたときに、彼女は「ありがとう」と日本語で伝えてくれました。彼女も日本語を話せる選手ではないが、わざわざサンキューではなくてありがとうと言葉を伝えてくれたその気持ちがとてもうれしかったです。

そして、もう一枚。ドイツの選手と準決勝の試合をしたときの写真です。誰よりもたくさん試合をしてきました。アメリカの大会で試合したときに、彼女の手があたって、私の前歯が欠けてしまったのですが、試合が終わった瞬間に、駆け寄ってくれて、本当にごめんと心配してくれました。

そしてもう一人紹介したいエピソードは2回戦であたったオランダの選手についてです。彼女は世界ランキング1位でシード1位に入っている選手で、2016年リオの2回戦が事実上の決勝戦だといえるほどの死闘でした。試合後彼女のSNSに上がっている写真に悲しい内容が書いてあり、なんとも言えない気持ちになったのです。それは彼女の気持ちが痛いほど理解できたからこそ悲しかったのです。2回戦というところで負けると敗者復活戦にも回れず、銅メダルさえも取れない。2つに1つの場面であることも私自身も認識して戦っていたのでその気持ちを想像することができました。しかし、翌日、彼女の方から歩み寄ってくれて、コングラチュレーションと言ってくれたのです。 このリオオリンピックでは勝ってもなお学ばされることが多くありました。金メダルを獲ったのに胸をしめつけられていて、ずっとその気持ちに名前をつけることができずにいました。このもやもやは何なんだろうと思っていたのです。

大学院での学び

そして社会人大学院へ。そのときこの言葉を見つけました。

「オリンピズム」

結果を求める中で得る過程を重視する考え方です。オリンピックの哲学でもあります。リアルな経験と重ね合わせられるのではないかと考え、これを大学院の研究テーマとしました。

他の選手はどう思っているのかとインタビュー調査もしました。
そして、改めて、「勝ち」を求める中で得てゆく「価値」があるのではないかと考えが膨らんでいきました。

さらに、スポーツ空間論(荒井 1986)に出会います。コートの中、外、実社会に分けられるとしており、「コートの外」空間にどのようにかかわるかで、その人のスポーツへのかかわり方の個性を読み取れるとするものです。

コートの中(競技)と隣接しているコートの外(競技の外)がとても重要。コートの外での出来事がプラスに働き、コートの中に良い結果をもたらしたともいえるような経験です。

「勝ち」と「価値」

金メダル競争から経験する「つながり」の価値。
「勝ちと価値」勝ちを求める中で得てゆく価値。

そして2020年オリンピックイヤーだからこそ考えなければならないこと。
それは勝ち負けを通して、世界の選手と試合し交流することができたこと。
そして、全てを懸けて挑んだ結果をどう解釈するかは自分次第。
そして誰もに勝ちはなくとも誰にも価値は残るものだと思う。

負けたら無意味ではなく、そのプロセスをどう考えるかは自由であるし、誰にもオリンピックに挑むそのプロセスは価値があるということです。

2020年地元東京でオリンピックが開催されることで良い面も悪い面もあります。

スポーツにできることを考えてきたが、いつまでも金メダルの価値にぶら下がって生きるよりも、彼女たちとのつながりの価値を継いで社会に活かすことを大切にしていきたいと考えています。

例えば、山下泰裕先生とプーチン大統領との関係性など、スポーツを通じてできたものがあります。今後は長期留学の予定もあり、彼女たちからもらったインスピレーションを大切にイギリスを研究予定地としていきたいです。

今私ができることは今ある繋がりをより太くしていくことが大切だと思っています。

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