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開催レポート

カルティベータ5周年記念特別シンポジウム 女性スポーツ勉強会#21 「女が女のスポーツを考える」2025年3月8日東京ウィメンズプラザ・ホールにて開催

2022年2月、コロナの足音が大きくなってきたまさにその時にカルティベータは誕生いたしました。テレビ朝日にてスポーツ実況や、ニュースステーション、報道ステーションの特集制作、19回ものオリンピックパラリンピックの現地取材を経て、まだまだ伝えきれないことがあると思い、私、宮嶋泰子は代表理事となって一般社団法人カルティベータを立ち上げました。
カルティベータは「耕す人」という意味です。文化を表す「カルチャー」も語源は「カルティベート・耕す」です。
よりよい人生を送るために生活の土壌を耕していく役割を担っていきたいと思い、命名しました。

コロナ禍に始めた活動です。5年間にやってきたことを簡単にまとめて会場にお越しの皆様にご紹介いたしました。


今回のテーマ:国際女性デーに女性スポーツについて語り合おう!

カルティベータ5周年を記念するシンポジウムは男女の違いをテーマにすることとしました。とあるSNSの投稿で、ラグビー指導者がつぶやいていた言葉が妙に心に引っかかりました。

「長年、男子選手の指導をしてきて、初めて女子をみることになった。面食らった。ボールの投げ方が男子と全く違うのだ。」

この言葉をきっかけに、今回は徹底的に女性のスポーツの特徴を見て見ることとしました。男女では何がどう違うのかみんなで話し合ってみたい、そんな思いで「カルティベータセミナー女性スポーツ勉強会#21・女が女のスポーツを考える」が実現することとなりました。

 登壇者は柔道の山口香さん、アーティスティックスイミングの井村雅代さん、産婦人科医の高尾美穂さん、女子長距離指導者の山下佐知子さん、内村航平さんの母である内村周子さん、そして、競泳オリンピアン井本直歩子さん、昭和女子大元特命教授広報担当参事の稲澤裕子さん、ファシリテーターは私、宮嶋泰子という布陣です。

 国内競技団体の女性理事について、競泳のオリンピアン井本直歩子さんと元昭和女子大学特命教授広報担当参事の稲澤裕子さんが登壇。自ら国内競技団体理事を務める二人です。東京オリパラを前にした2019年に、スポーツ庁がガバナンスコーを制定し、「中央競技団体においては理事の4割は女性にするように」と目標割合が提示されました。達成できない時にはペナルティーとして助成金が保留となることが示され、現在、日本オリンピック委員会や日本スポーツ協会等の統括団体では女性理事は4割を超えてきました。 女性理事や外部理事が増えたことで、不正を防ぐ体制が出来上がり、会議が活性化してきたように感じると当事者としての感想も述べられました。

クリティカル・マスという言葉も出てきました。企業や集団において、女性の比率が30%を超えることで多様性が尊重される基準となる数値を差します。この目標値は国連の韓国によって確認されており、女性リーダーがその資質を発揮するためには、一定以上の女性がいる環境が必要です。

お二人のプレゼンテーションの後、産婦人科医の高尾美穂先生と宮嶋が二人に質問をする形で登場。

  高尾先生は、「急に女性が4割に増えた理由はペナルティーがあるからなんですねえ」と感慨深げにお話されました。助成金が減らされないように、中央競技団体は必死に4割まで女性の役員を増やしたのです。しかし、このペナルティーが有効ではない地方に目を向けると、まだまだ女性理事や女性指導者が不足しており、会議においては男性中心主義が残っていることも事実です。

 女性に、「理事になって会議に出ていただけませんか?」と依頼しても、「いえいえ、私なんかダメですよ」とお断りになる女性がいかに多いか。女性は家事と仕事のダブルワークで、今の仕事をこなすのに精いっぱいという所もあるのでしょう。それを解決するには、まずは家事を家庭で夫婦で分担するところから始まるとは内閣府の男女共同参画の最初に書いてあることです。

 女三四郎という異名をとり、中学生の時に初段をとった山口香さんが登壇。女子の試合が行われるようになった時期の草分け的存在だけに、一から十まで自分で監督と交渉しながら話を進めざるを得なかったことが語られ、いかに指導者と対話をして物事を進めていくことが大切かが語られました。

 山口さんがお話になったことで印象深かったのは、男性は扉が次々に自動ドアのように開いていくが、女性は一つ一つの扉をこじ開けなくてはいけないということ。これは働く女性ならば必ず実感していることでしょう。

 宮嶋からは、2013年の柔道女子代表の監督による暴力とハラスメントが起きた時に、女子選手たちを陰からバックアップして、訴えることをサポートしてきたのが山口さんだったことを補足させていただきました。おかしいことは泣き寝入りせずにおかしいと伝えることはとても大切なことです。今スポーツ界ではノー「スポハラ」と言って、スポーツ界におけるハラスメント防止に力を入れていますが、こうしたアクションが起きてきたものも、山口さんの勇気ある行動からです。

参加者として群馬から駆けつけてくださっていた宇津木妙子さんに壇上に登っていただき、会場の皆で秋の叙勲を花束贈呈で祝いました。花束贈呈はカルティベータの理事を務める上治丈太郎さんです。ただひたすらソフトボールにかけてきた人生。これからも益々のご活躍をお祈りいたします。

 パート3はアーティスティックスイミングの井村雅代さん。かつては女子だけが出場できたシンクロナイズドスイミングですが、アーティスティックスイミングと名前も変わり、男子も出場できるようにルールが変わりました。井村さんもつい先ごろまでドイツで男子選手を指導してきたと言います。

浮くために手で水をかく基本動作、スカーリング一つをとってみても、男子は腕と脇の筋肉が多いために、女子と同じような動作ができず、かつ筋肉量が多いために沈みがちになってしまうとのこと。男子のためのスカーリングを考える必要があったという話は実に興味深かったです。男女の身体の作りが異なるため、同じことをするにもその動作も違ってくるのですね。
井村さんが指導したドイツは、欧州選手権のアクロバティック種目で初めてアーティスティックスイミングで優勝しました。パワーのある男性が片腕でぐいと女性を持ち上げる動作はビデオで見て圧倒される納得の演技でした。男性の加入によって、アーティスティックスイミングはまたパワーアップするスポーツ的要素が増える競技になってきそうです。

井村さんの講演後、教え子であり現在は大阪で書籍店を営む二村知子さんから、どれだけ井村さんが面倒を見てくれたかのサプライズレターが届けられ、どなっているばかりがクローズアップされがちな井村さんの隠された一面が披露されました。

 また、教え子たちがさまざまな業種で活躍していることが井村さんから披露され、会場にいたテレビ業界で仕事をする日本代表でバルセロナの世界選手権金メダリストの川嶋奈緒子さんが指名を受けて答えるというシーンもありました。アーティスティックスイミングは体作り、曲との合わせ、プールの中での泳ぎ、水中での演技づくり、全員での合わせなど、一日12時間近い練習時間を要します。これは日本だけではなく、世界中のアーティスティックスイマーにとっても共通の話です。ですから、それらのトレーニングを経た選手たちは社会に出ても粘り強く真剣に仕事にトライしていくことができるのでしょう。

 

パート4は女子長距離の5人の選手をオリンピックに送り出した女性指導者、山下佐知子さんと、体操競技の内村航平さんの母、周子さんも交えて、全員でのトーク。日本の女子スポーツや身体活動が抱える問題点が議論された。

まず、前提として示されたのが、日本の中学女子の約三分の一が一週間に60分も身体活動をしていないという現実でした。


痩せていながら体脂肪が30%以上あるという若い女性も増えているといいます。こうした女性が出産すると低出生体重児が生まれるリスクが多くなります。産婦人科医の高尾美穂先生によれば、本来低出生体重児は発展途上国において生まれることが多く、目や心臓などの発達に問題が起きるケースがあるそうです。しかし、今回ここで問題になっているのは、日本の場合で、青少年期の運動不足から、痩せているのに体脂肪が多い女性から生まれることがあると言うことについてです。

どうすればもっと身体活動を活発に行うようになるのかが問われました。
60歳を過ぎても体操競技やバレエを行い、子供たちを指導している内村周子さんからの「楽しいという気持ち、それが一番大切。だから私は今でも続けてやっていられる」との言葉が全てでしょう。


学校体育での指導が再考される必要性は大きいですね。楽しみながら、自らの身体を育んでいく体育の大切さが求められています。

にここから議論は女性が置かれた「環境」「身体」「人生」の3つに分けて進められました。

環境:日本のスポーツメディアの在り方は男性中心ではないか?

まず出てきたのがメディアでした。日本のテレビでは圧倒的に男性スポーツが中心になっており、女子の競技は露出が少ないのが現状です。史上初めて男女の選手数が同じになったパリオリンピックでは、男女の競技が同等に露出するように放送計画が作られたそうです。英国では近年、「男女のスポーツを公平に扱い、敬意ある報道を心掛けるよう」に変わってきており、その結果、女子スポーツへの関心が高まっているといいます。日本の放送局にはまだその意識はないようですね。

稲澤裕子さんから、NHKが調査したデータが提示され、スポーツ番組においてスタジオ部分などで担当する演者には女性が増えてきていることが示されました。しかし、実況となるとほとんどが男性です。

国際女性デーの3月8日の特集として毎日新聞では女性のスポーツ実況を取り上げ、1996年のアトランタ五輪で実況をした宮嶋泰子についての記事を掲載しておりました。担当記者は多方面に取材を行うと同時に、当時の宮嶋の実況も聞いたそうです。今では違和感なく聞ける女性の声ですが、当時は多くのバッシングを受けて散々な評価をされました。時代が変わると評価も変わってくるようです。

 

また米国には、50年前に制定された連邦法のタイトルナインがあり、公的高等教育機関においては性差別が禁止されていて、男女同等の練習環境や奨学金が与えられています。これによって大学アスリートの女子の割合は28%から44%までに上昇してきています。一方、日本の大学スポーツはまだまだ六大学の野球や駅伝など男性スポーツが中心です。日本にもこうした教育法は必要かもしれません。

身体:女性と男性の身体の違いをきちんと理解しているだろうか?

 その2のテーマは「身体」。男性と女性では身体の作りが異なり、筋肉量も骨の太さも違います。当然、同じ競技であってもスキルが異なってきます。



女性の骨盤は男性に比べて横に広がっており、そのためにX脚になりがちです。膝が内側に入り、足首が外側に曲がると、前十字靭帯断裂の危険性が男性よりも多くなってしまいます。予防のための準備運動なども国際サッカー連盟FIFAの11+というコーナーに示されているので、正しい知識を持ち、しっかり対処すべきでしょう。

また、女性の首の骨、頸骨は男性よりも細くできています。サッカーのヘディングにより脳震盪をたびたび起こし、生活に支障をきたす選手もいます。ヘディングそのものや、男女が同じボールでよいのかも検討の余地があるのではないだろうかという問題提起もありました。

 トップレベルでは数少ない女性の指導者である山下佐知子さんからは、生理や痛みなどについても細かく話し合ってトレーニングを進めていくことが示されました。女子では骨盤の広さの差ゆえか、腕振りは肘を張る傾向があるように感じるとの言葉が印象的でした。
 月経周期で排卵期には靭帯が緩みやすく怪我をしやすいことも直近のデータで示され、今後はこうした点を選手自身も指導者も意識しながらのトレーニングが必至になってくるのでしょう。

人生:女性のライフイベントに即してスポーツができないものだろうか?

 その3のテーマは「人生」です。女子のアスリートや指導者にとってのライフイベントは結婚、出産、子育て、家事、育児とまだまだ山あり谷ありですが、これらは本来女性が一人で抱える問題ではありません。スポーツをしながら結婚出産などの経験で得た情報を互いに分かち合っていくことの大切さと、それを行う団体の存在があることなどの確認が行われました。

DE&I 多様性と衡平、そして包摂

 8人の登壇者によるシンポジウムの締めとして、多様性のダイバーシティと、衡平にするエクイティ、そして包摂するインクルージョンの必要性を画像で説明し、最後に、スポーツ社会学の第一人者である菊幸一筑波大学名誉教授からまとめの言葉をいただいた。



菊先生によれば、「近代の工業化社会で大きなエネルギーを持っている男性を中心とする神話が生まれてきて、スポーツはその最たるものとなった。スポーツそのものが男性スポーツとして生まれてきたので、女性はそれに縛られ強いられる。今後はそれを公平なものにしていくというプロセスが必要で、そのためにはルールを変えていく作業が行われていかなければいけないだろう」とのまとめでした。

 今回は男女の違いをキーワードに、スポーツを横断的に考えてみましたが、実に多くのことが分かった4時間でした。
女子のスポーツにはまだまだ改善点が山ほどあり、より多くの人が楽しむようになるためには、組織的にも、ルール的にも、指導者やスポーツを行う者の知識も意識も変えていく必要があることが強く感じられました。

最後に、日本山岳会初の女性会長、8000m級の山を何度も制覇している橋本しをりさんから締めの言葉をいただきました。た。

次回は7月5日(土)に同じく表参道の東京ウィメンズプラザで行われる予定です。

 

 今回も総合司会はカルティベータ理事の山口容子アナウンサーでした。さすがの落ち着きと機転ですべてをスムースに進行してくれました。お疲れさまでした。

カメラ:YO NAGAYA

ttps://www.jka-cycle.jp/

この事業は公益財団法人JKAの公益補助事業として行われました。 

 

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