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開催レポート

2020年2月22日開催
第15回女性スポーツ勉強会より 報告 その1:田瀬和夫さん編

第15回女性スポーツ勉強会のテーマは「2020オリンピック・パラリンピックイヤーだからこそ考えよう。スポーツにできること」というものでした。

ご登壇いただいたのはSDGsの専門家でいらっしゃる田瀬和夫さん、IOC(国際オリンピック委員会)とIPC(国際パラリンピック委員会)で教育委員を務める長野パラリンピックアイススレッジ金メダリストのマセソン美季さん、リオデジャネイロオリンピック柔道金メダリストで現在筑波大学大学院を卒業された田知本遥さん、産婦人科のスポーツドクター高尾美穂医師、そして総合コーディネータは宮嶋泰子でした。
今回からシリーズで、この勉強会の概要をお伝えしていきます。

第一回は田瀬和彦さんによる「SDGsのとらえ方」です。

SDGs <Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)>については、昨今語られることが多くなっていますが、本当に意味するところ、目指す意義など、基本の部分については意外と伝えられていないように感じます。

そこでSDGsのスペシャリスト田瀬和夫さんに解説いただきました。単なる17個の目標についてのうわべではなく、その裏側にある関係性などがわかり、実に印象深いお話でした。また、今回はさらに、「スポーツにできること」というテーマについてもお話しいただきました。

田瀬和夫さん

1967年福岡市生まれ。東大工学部卒。92年外務省に入省、人権難民課、国連日本政府代表 部一等書記官等などを歴任。「人間の安全保障委員会」事務局で、緒方貞子氏の補佐官も務 めた。2005年国連に転じ、人間の安全保障ユニット課⾧などを務めた後、デロイトトーマ ツコンサルティング執行役員。2017年、SDGパートナーズを設立し代表取締役CEOに就任。

SDGsの前提条件を知っておこう

2004~2014年まで国連で緒方貞子さんのもとで人道支援をしていました。
まず、地球の裏側にあるコロンビアの子どもたち。そこはまるで統治の効いていない村でした。写真に写っている子供たちは笑っているけれど、月に一人は様々な理由でいなくなってしまいます。そこで生存支援を行っていました。そのあとレバノンでのクラスター爆弾の不発弾処理、さらにカンボジアと仕事が続きました。

2007年のカンボジア、プノンペンの巨大なゴミ捨て場には、毎晩毎晩プノンペンの街から出たごみが集まります。地方に住んでいた人が回りにスラムを作り、そのごみを分別して食べるか、それを売っています。これまで経験をしたことのない匂いです。人間の糞尿、そして腐敗した匂い。3日間くらい匂いが鼻から抜けませんでした。そこに住んでいる子どもたちは、そのような空気を吸って生きている。非人道的な環境の中で子供たちは生きている。そのため、読み書きそろばんができない子供たちが多いのです。

ここでちょっと想像してみてください。この子たちが20歳になったときどんな仕事があると思いますか?
ご想像の通り1つか2つかしかないでしょう。この時点で人生の機会が失われているのです。この子たちは今、生きていれば20歳になっています。

私の願いとしては、
一つ目はとにかく生きていてほしい。
二つ目は読み書きできるようになっていてほしい。
三つ目は働き甲斐のある仕事に就いていてほしい。
ということです。
1990年代から2000年にかけて世界中で戦争が起こっており、そしてその後に世界中でこういう状況が起こっていた。というのがSDGsの前提条件としてあったのです。



SDGsはどのようにしてできたのか

1945年国連ができて、「平和・開発・人権」の流れが主流でした。80年代半ばくらいから「地球を使いすぎていませんか。」ということが取り上げられました。ノルウェー元首相が、「今のニーズを満たすために、次の世代から借りないようにしよう」ということをもって、サステナビリティ(持続可能性)を定義しました。

1992年にはリオデジャネイロで地球サミット(環境と開発に関する国際連合会議)が行われ、1997年には京都で気候変動枠組条約締約国会議が行われ京都議定書が作られたという流れになっていきます。

2つの流れがあるものの、目指しているところは同じではないかといことで、この統合が始まりました。アナン元事務総長が「一層大きな自由の中で、国連の活動は統合すべきだ」という報告書を書いて国連の活動を統治していきます。2012年にコロンビアがそれを文書にしようと国連に提案し、3年間交渉し、2015年9月25日に採択されたのが、このSDGs。17個の目標と169のターゲットがあります。 2015年から2030年に、「どのような社会を引き渡したいか」が書いてあります。

これについては、全加盟国が反対せず、全会一致で世界が合意できました。
15年後の世界ついてどの国からも文句もでなかった。これは人類の歴史上はじめてのことです。こうしてできたSDGsは、139か国すなわち75億人の人たちが初めて世界観が統一できたものと言っていいでしょう。

SDGsの17の目標はすべてつながっている

今、このSDGsを使って、世界を変えていこう、世界のビジネスを変えていこうと目指す動きになっています。
この17個のアイコンを見たことがあると思います。これら17個の社会の事象はバラバラではなく、全部繋がっているのです。

例えば、国連世界食糧計画(WFP)は学校給食支援で、食べ物が届かないところへ食べ物を届けることを使命としている機関です。

貧しい村で学校給食を支援するとどういうことが起こるかというと、子どもたちだけではなくおじいちゃんもおばちゃんもみんな学校に押し寄せるようになります。勉強しに来るのではなくご飯を食べに来る。
それでいいんです。栄養が改善される。改善されると、元気が出る。元気が出ると、一定の割合で勉強する。読み書きできなかった子どもたちが、それができるようになると次の学校へ進む。次の学校に行かなくてもちょっと良い職業に就ける。ちょっとお金を稼ぐことができる。そうするとちょっと貧困層が減る。そういう連鎖反応が起きてくる。
それだけではありません。
学校給食の材料は、現地の周りの農家と漁師から買う。その収入が上がり、ちょっと貧困層が減る。
まだある。子供たちが学校に行くということは、ストリートにいないということですから、治安が良くなる。

学校給食支援をするだけで、SDGsドミノが起きてきます。17の目標の「2番の飢餓を無くそう」というボタンを押すことで起きたドミノ。社会学や開発学で、テコの力点。英語で言うとレバレッジポイントというのですが、このテコの力点を押すことで、一気にドミノを起こすことができるのです。

ただ、WFP(国連世界食糧計画)だけがこれを倒せるのではなくて、現地の農家の生産能力をあげるために食料農業機関が入り、学校で子供たちが勉強するには教科書のためにユネスコが入る。ここのように国連全体が一体となって学校給食というものを起点として一気にドミノを倒す。この「連関、リンケージ」というが、SDGsを全体を理解するのに必要な概念なのです。



「人間の安全保障」がSDGsの「指導原則」

ここで、国連の話になりますが、これを体系化して政策にしたのが緒方貞子先生でした。
緒方先生は1990年から2000年まで国連難民高等弁務官をされていました。その頃の90年代の国連のやり方は、みんなバラバラでした。緒方貞子氏が確立した「人間の安全保障」は、様々な事象の連関の重要性を国連の政策にしました。

教育、環境、安全、食料、雇用、保健衛生は人間を中心につながっている事象の関係を考えて、国際機関はそれを考えるように提唱しました。

人間安全保障基金ではガイドラインを作り、複数セクター、例えば農業と教育など、複数セクターと複数の国連機関が関わっているプロジェクトに限って基金を出すという仕組みにしました。

この仕組みを取り入れたことで人間安全保障という概念は、いろんなものの関係で考えなければならないと、国連の中で10年かけて大きく広がっていきました。今でも外務省は「人間の安全保障」がSDGsの「指導原則」としている。
国連においてもバラバラにやるのではなくて、繋げてストーリーとして考えるということを重要視してきたのです。

日本でSDGsを進めるときの鍵は「5番」

さて、日本でSDGsを進めるにあたって、鍵となるのは、「5番のジェンダー平等を実現しよう」です。これは間違いないことです。2019年「ジェンダー・ギャップ指数」では日本が153か国中110位から121位へ後退しました。
169のターゲットでは、だいぶうまく回り始めているのに、日本は男女平等と女性のエンパートメントだけがきちんと機能していないのです。すべてにブレーキをかけている。それが原因になっていることもあるし、結果になっていることもあります。

例えば、経済界の人たちは、IMF国際通貨基金( International Monetary FundもOECD「経済協力開発機構(Organization for Economic Co-operation and Development)もマッキンゼーもゴールドマン・サックスもみんな口を揃えて、日本の女性が活躍すれば、人口が減少しようとも日本の国内総生産は20年間で20%以上上昇すると宣言しています。私もそう思う。だから日本でSDGsに取り組む場合、企業もNGOも政府も、まずは「5番のジェンダー平等を実現しよう」から、というのが私の持論です。

女性のスポーツ参加は平和構築にまでつながっていく

さて、これを女性がスポーツに参加することがSDGsの中でどのような関係があるかということを私案だが作ってみました。
みなさんが考えるのはスポーツで健康になるということでしょう。
まずは「3番、すべての人に健康と福祉を」です。

健康になればまたスポーツができる。でも私はもっと大きなもっと重要なことが起きると思っている。女性がスポーツに参加すると、女性が強くなる。男性との関係でより対等となる。ジェンダー平等が実現される、働き甲斐などが変わってくる。そして教育が変わってくると、いろんな問題が解決される。飢餓も解決される、貧困も解決される。もう今や女性の取締役が居ないところはイノベーションが起きないと言われています。そして格差がなくなる。そして環境が良くなる。平和に近づく。平和があって初めてスポーツができるとなるわけです。

実は、私の名前は和夫という。私よりも年上の人たちには“かずお”という名前が一番多い。それはその世代が一番欲しかったのが平和だからです。
女性がスポーツに参画することで、いろんな連鎖反応を起こして、平和までもっていくことができるのではないだろうか。
これが今回私が一番伝えたい論点です。

SDGsの哲学を理解しておこう

そしてもう一つ。
SDGsの哲学を理解していただきたい。
さきほど、国連総会文書と伝えましたが、SDGsの文書は、国連総会決議で合計35ページくらいあります。そこには単に数値目標だけではなくて、非常に高らかな前文があり、それから重厚な宣言が59段落あり、ようやく数値目標が31段落あるのです。
いま日本のSDGsの取り扱いを見ているとみんなこの数値目標しか扱っていないのです。SDGsがなかなか理解されない原因の一つはそこにもあるのではないでしょうか。

「すべての人たちが社会に参画できる」

今日は4つキーワードを紹介しましょう。
一つは、前文の第二段落の中に英語で書かれてある。1990年代、2000年代、みんな経済成長ばかり追いかけていました。その結果、格差が出来てしまった。この格差をなんとかしたいということと、LGBT、障害を持っている方、民族的少数者などこれまで十分に社会に参画できなかった人たちが参画できるようにしたいということ。
「すべての人たちが社会に参画できる」ということがこのSDGsの大きな哲学の一つです。

In Large Freedomについて

実は、もっと重要なことが第一文に書いてある。

「このアジェンダは、人間、地球及び反映のための行動計画である。これはまた、一層大きな自由における普遍的な平和の強化を追究するもの」。
一層大きな自由in larger freedom。この自由という言葉は、国連システム、戦後の国際社会を支える根底の概念です。

このfreedomという言葉が使われたのが、1941年のルーズベルト大統領の一般教書演説で、これをニューディール政策といいます。そこに4つの自由「表現の自由、信教の自由、欠乏からの自由、恐怖からの自由」を掲げました。
その中の欠乏からの自由・恐怖からの自由がin larger freedomとなって、1945年の国連憲章の前文に入ってきました。この in larger freedomをタイトルとして、2005年コフィ・アナン事務総長報告のタイトルを第一文にも入れています。どれだけ重要かということを説明しましょう。

今、氷の上で人類で一番自由な人は誰だと思いますか。それは羽生選手。お会いしたいことはないが、氷の上で一番自由なのは羽生選手だということに誰も反論できないと思います。その自由である。
Freedomとは勝手にやっていいという自由ではありません。できることが多くなるという自由。羽入選手の氷の上での自由というのは、彼の練習や経験や考え方など彼を構成するすべてのものが、氷の上で選択肢を構成している。
つまり、このSDGsでいうfreedomは、人々が自分の人生においてたくさんの選択肢があって自分で選ぶことができることで、それを自分らしいと表現することなのです。すなわち、SDGsはすべての人が自由に生きる社会にしようと言っている。

「よく生きること Well Being」

他にもビジョンというものが7番にある。「われわれが思い描く世界は、すべての人が栄え、すべての人が身体的、精神的、社会的によく生きられる世界である」とあります。
SDGsを包括的に理解する上で極めて重要な概念です。「よく生きる」は幸福と訳してはいけません。ウェルビーイング。よく生きる。これは国際社会で非常に重要視されています。人間一人ひとりがよく生きていると思えるかどうかが、その人の人生のみならず世界の経済を変えるのだ、とOECDは宣言しています。
そして、身体的、精神的、社会的によく生きるということをWHO憲章で健康と定義しているのです。

SDGsを支える4つのキーワード

つまり、SDGsとは哲学的にこういう社会を目指しています。

世代を超えて
すべての人が
自分らしく
よく生きる

今、政府も企業もNGOも、みんなそれを考えています。個人も政府も企業も自治体も、一つひとつの目標よりもどんな世界を次の世代に残したいかを考えるべきでしょう。これに対して、自分が何ができるかを考えたらいいのではないでしょうか。



SDGsとスポーツがどう関われるのか

SDGsとスポーツがどう関わっていけるのかを自分なりに試案を作ってみました。これは自分にとって大きなチャレンジでした。今日初めて語ります。

今、100mの世界記録を持っているのがウサインボルト選手。彼は類まれなる肉体を持って生まれてきた選手ではありますが、医学的に見ればボルト選手と同様に肉体的ポテンシャルを持っている人は多くいるはずです。しかし、世界記録は彼にしか出せていない。

彼は身体の基礎能力と潜在力を実現する力が高かったのではないでしょうか。身体能力が低くても、身体の潜在力を実現する力が高ければ、もっと早く走れるのではないか。実は目指すところというのは、身体の潜在力を実現する力が決めているのではないか。それは何か。

You are what you eat.
あなたはあなたが食べるものである。
だから、食べるものに気を付けよう。
何を食べるかを考えるのもあなたである。


You are what you think.
あなたの存在はあなたが考えることそのものだ。つまり、存在というのは置換に完全に依存する。
古くは、空海の般若心経で、色即是空 空即是色といいました。現実は無であり無は現実である。それを決めるのはあなただとうことですね。
デカルトの、われ考えるゆえにわれありというのもあります。私という自我があって初めて現実が存在するということです。

仮説ですが、スポーツは、与えられた身体の能力をどれだけ解放できるかということではないでしょうか。純粋に心の問題なのではないだろうか。
ここにSDGsとスポーツの最も重要な接点があるように思えるのです。

最後に、私の娘は2015年生まれ。
SDGsが採択された年に生まれた。
この子たちの世代が15歳ときに、SDGsが目指す世界で、何を残せるかを考えるべきだと思っています。

以上

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