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2020.04.22
スポーツ

新型コロナ感染拡大「一流選手のあり方とは」・・取材していただいた記事を転載します。

新型コロナウイルスの感染拡大はあらゆるスポーツ活動を休止や停滞に追い込んでいます。この状況下でトップアスリート(一流競技者)やスポーツ関係者に問われていることは。テレビ朝日のアナウンサーやディレクターとして40年以上にわたってスポーツの魅力を発信してきたスポーツ文化ジャーナリストの宮嶋泰子さん(一般社団法人カルティベータ代表理事)に聞きました。(勝又秀人)

日本国内でほとんどの選手が自分の本来のパフォーマンスを発揮できず、十分なトレーニングもできずにいます。しかし、私はかつてないこの事態がスポーツ選手に新たな考え方や客観的なものの見方をもたらすのではないかと、期待しながら見守っています。

日本のトップアスリートはある意味、自己中心的であることが許される立場にある稀有(けう)な存在です。パフォーマンスを上げるためのトレーニングや食生活に集中できる人たちです。早ければ幼稚園の頃から一つの競技に専念してい来たこともあり、自分が置かれてきた環境がどれだけ恵まれているのかを感じる間もないまま育ってきています。

今回の事態を受けて、自分たちが社会の中で生かされている存在であることや、どう生きていくかを考えざるを得ない状況に置かれました。

私の原点となる取材を思い起こします。

1984年ロサンゼルス五輪で、戦火をくぐりぬけて参加した中東レバノンの選手団を開会式前日に取材しました。

彼らは地下の坑道を使って走ったり鍛錬したりしたと聞いて驚きました。激しい内戦状態の中で、安心して練習できる場所が地上にはありませんでした。国を脱出するのも一苦労で、80時間もかけて米国にたどり着きました。

出場にかける思いが胸に響きました。

「戦争の渦中にある私たちですが、食事をしたり眠ったりするのと同じようにスポーツがしたいのです。オリンピックに出ることでレバノンンという国に私たちのような人間がいることを知ってほしい」

どういう社会状況の下でスポーツができているのか。スポーツは自分たちの生活の中でどういう意味を持っているのか。こうした思考を巡らせる中で、自分を客観視する前向きな機会になると思います。

競技者として視野を広げる機会にもなります。バルセロナ、アトランタ五輪女子マラソンのメダリストの有森裕子さんは故障や貧血に悩まされた現役時代、図書館に通って人体解剖図の本を読み込み、そこで得た知識を競技に生かしました。

異なるフィールドから得ることも少なくありません。体操の選手はこれを機にダンスや絵画、芸術にも目を向ければ、もっと自分を豊かに表現できるようになるかもしれません。人任せにしていた食事も自分でつくってみることで、多くの学びや気づきがもたらされるはずです。

もちろんスポーツはトップアスリートのものだけではありません。私たちが健康であり続け、人間が人間らしく生きるために、権利として保証されているものです。

今は身体活動そのものが著しく制限されています。こういう時だからこそ健康や体づくりの大切さを感じる機会だと思います。そして、普段の私たちのライフスタイルも見直すきっかけになります。

スポーツ庁の調査によると2019年度の国民のスポーツ実施率や子供の体力はいずれも前年(度)より低下し、中でも小学生男子の体力が過去最低になっているのは深刻です。

日本では週1回以上のスポーツ実施率は40%程度です。北欧のフィンランドはすべての人のスポーツ実施率を上げる政策に力を入れた結果、66%に達しています。今の日本に抜け落ちているものは明らかです。

2月に立ち上げた「カルティベータ」は「耕す」という意味です。カルチャー(文化)と同じ言葉から派生しています。私たちの生活を豊かに耕してくれるものが文化です。

人間にとって大切な文化・スポーツの営みを保証する社会や生活の在り方を探り、アスリートと社会をつなぐお手伝いもしていきたいと考えています。

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