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2023.01.02

2023年に向けて 「私とオリンピック」日本スポーツマンクラブ財団への寄稿文から

1980年モスクワオリンピック開会式

謹賀新年

2023年の幕開けです。
皆様、新しい年を健やかにお迎えでしょうか。

初心忘るるべからずと申します。スポーツにかかわって45年が過ぎました。
過去を振り返りながら、これからどのように歩んでいくべきかを改めて考えてみました。

昨年末に、日本スポーツマンクラブ財団のメンバーになりました。その会報誌に「私とオリンピック」というコーナーがあり、文章を寄稿いたしましたので、転載いたします。

日本スポーツマンクラブ財団会報172号から

「スポーツを表と裏から見てきた」

テレビ朝日に入社して間もなく上司からスポーツを担当するように言われ、あまりのショックに涙を流してから既に45年余り。当時モスクワ五輪の独占中継権を獲得した局としては何としても女性のリポーターを育てたかったのでしょう。

取材を重ねるうちに、ああ面白い、これならやっていけるかもしれないと思ったのが来日したハンガリーのジュニア体操選手を取材した時でした。当時社会主義国家の様子を知る機会などめったになく、トレーニングや家族の話を聞きながら彼らの生活の断面を伺い知ることができたからです。そうだ!スポーツから世界や社会が覗ける!その気づきが取材にのめり込む決め手になりました。

初めてニュース番組中のスポーツコーナーを担当した時にプロデューサーから「スポーツも社会の中の一現象としてとらえることを忘れないように」と言われ、これも今でも私が大切にしていることの一つです。
 

モスクワから平昌まで19回もの五輪を現地取材する機会に恵まれましたが、最も印象深かったシーンはと尋ねられれば、モスクワ五輪の陸上競技の棒高跳び、ポーランドのコザキエビッチとソビエト選手の一騎打ちと答えるでしょう。他の種目が終了しても延々続く二人の闘い。そのピットが置かれた第一コーナーに向けてバックスタンドから特大のポーランド国旗を振って大応援団が国歌を歌いながら移動してきたのです。時代はワレサが率いる連帯がポーランドで勢いを増してきた頃です。ソビエトに対するポーランド国民の想いがその歌声に乗り移ったかのように響き渡り、白夜のスタジアムを照らすカクテル光線の中にその一団の姿が浮かび上がった時は、映画のワンシーンを見ているのかと錯覚したほどの衝撃でした。

 1990年春の陸上競技シリーズでルーマニアやチェコの選手たちが来日した時も面白かったです。革命直後で、大会事務局が用意したルーマニアの国旗は古いチャウシェスク政権時代の物しかありませんでした。何と選手たちが国旗の真ん中にある共産主義国家のシンボルともいえる鎌と槌の部分をくりぬいたのです。まん丸の穴が真ん中に開いた国旗が青空にたなびいていた様子は何やら爽快でした。チェコの砲丸投げの選手は「僕はハベル大統領のボディーガードを買って出たんだよ」と言っていました。何と頼もしいんでしょう。アスリートと言えど一人の人間、国民としてしっかり自分の意思や考えを持ちそれを実行していく。その姿にすがすがしさを感じました。

 1992年のアルベールビル五輪では大会が終了に近づくにしたがって、元ソビエトCISの選手たちが五輪で来たウェアを道端で売り始めました。国家からの庇護がなくなり経済的にも困窮していたのでしょう。

 アスリートについて言えば、中学時代から気にかけていた小平奈緒さんを3大会それぞれに取材できたことでしょうか。選手自ら考え、コーチと相談し、新しい方法を模索して成長していく様は取材していても興味深くスポーツの深遠さを知ることにつながりました。多くのアスリートがこうした気づきや学ぶ姿勢を持ってくれたらどんなにいいだろうと思ったほどです。

 こんな風にスポーツを取り巻く人々や、アスリートがどのような環境で何を考えながら人として生きているのかに常に興味を持ってきた43年間のテレビ朝日での仕事でした。役割はアナウンサーから始まり、ディレクターとしてニュースステーションや報道ステーションの特集や一時間番組などを制作してきましたが、常に大切にしてきたのは、現状を表と裏の両面から見て考えることでした。

 2020東京オリ・パラは招致時に「福島汚染水はアンダーコントロール」と言った安部首相発言から懐疑的になりました。さらにはコロナ禍が重なり、スポーツイベントを国民が死ぬかもしれないリスクを冒してまで行っていいものか、この問題は私の頭の中でぐるぐるととぐろを巻き続けました。汗と涙を流してきたアスリートのために何としても実現させたいという熱狂的なオリ・パラ支持者もいれば、実現させる目的は自らの懐に大金を入れることであった人もいました。もはやスポーツに関わる人は実直であるという言葉は通用しません。スポーツが利用される時代に、様々な角度から見ていくことの大切さを痛感しています。



宮嶋泰子:スポーツ文化ジャーナリスト(一社)カルティベータ代表理事 ウェブやYouTubeで情報発信や勉強会を実施。難民のためのスポーツイベントも行う。1955年生まれ 早稲田大学第一文学部フランス文学専攻 1977年テレビ朝日入社 2020年退社

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