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2023.11.10

「私たちの過去・現在・未来」女性スポーツ勉強会② その熱き概要

「女性スポーツ勉強会〜マネージメント編2〜」開催、各国の事例や課題を紹介

 世界経済フォーラムで示された日本のジェンダーギャップ指数は、なんと世界で125位。女性活躍を推進し、またスポーツ界での女性を取り巻く環境を改善しようと、「女性スポーツ勉強会〜マネージメント編2〜」(カルティベータ主催)が2023年10月28日、東京ウィメンズプラザで開かれた。

「必要なのは、意識改革」小川真理子・東京大学男女共同参画室副室長

<小川真理子さんのお話>

最初に登壇したのは、東京大学男女共同参画室副室長の小川真理子氏。「日本の女性をとりまく現状と課題」と題し、まずは内閣の男女共同参画会議で示された「女性版骨太の方針2022」について紹介した。その中で、女性の経済的自立に向けた取り組みの1つとして、男性の家庭・地域社会における活躍を説明した。

「現在、家事の分担は7割を超えるようになり、男性の育児休業者も国家公務員では5割を超えるところまで来ていますが、まだまだ推進が必要です」とした。

 また政治分野における女性の活躍については、こう話した。

「国会議員に占める女性の割合は、衆議院で9.9%、参議院で25.8%。衆議院での割合は、世界190カ国中164位と低いです。世界130カ国近くで政治分野でのジェンダー・クォーター制が導入されているなか、先進国では日本のみが低迷しているのが現状です」

さらに、女性が尊厳と誇りを持って生きられる社会の実現について、説明した。

「2022年には、困難な問題を抱える女性への支援に関する法律が成立。2023年のDV防止法改正では、精神的暴力も保護命令の対象になりました。そして現在、性暴力・性犯罪のためのワンストップ支援センターが全国47箇所に設置され、民間団体によって運営されています」

 一方、東京大学としての取り組み事例も紹介した。東京大学では、2006年に総長直轄の男女共同参画室を設置し、多角的に女性のサポートを行っている。

「アジア諸国では、女性の学生比率が5割近くあるのに対して、東大は約20%。女性研究者比率も、日本は諸外国と比べて低くなっています。東京大学を変えるという強い意識で、改革に取り組んでいます。まず、なによりマジョリティ側の意識改革が必要です。そして女性研究者のキャリアアップ、女性教員の増加に向けて、支援を行っていきます」

ドイツの柔軟な取り組みと、古い意識の両面を説明、サンドラ・ヘフェリンさん

2人目の登壇は、サンドラ・ヘフェリンさん。ドイツ・ミュンヘン出身の日独ハーフで、両国の文化の差をもとに数々の著述、コラムニスト活動し、著書の1つに「体育会系 日本を蝕む病」がある。

「日本のジェンダーギャップ指数は125位と先程紹介がありましたが、ドイツは6位。といっても完璧かというと、そうでもありません。ドイツのジェンダー意識についての、ネガティブ面、ポジティブ面、両方を紹介したいと思います」とサンドラさん。

 1つ目の事例は、2021年に体操の欧州選手権で、レオタードではなく足首まで覆うボディスーツで出場した女性サラ・ヴォスについて。

「体操競技では、宗教上の理由から肌の露出が少ない衣装を着用する選手がいるため、ボディスーツはルール上認められてきました。しかしサラの場合は宗教上の理由ではなく、『子供の頃は気にならなかったけれど、体も心も成長してからは、レオタードは居心地が良くなかった。女性監督の応援もあってボディースーツにした』という理由でした。彼女の意見を応援してくれる人と雰囲気が、ドイツにはあった、ということです」

 しかし一方で、反対意見があったことも紹介した。

「宗教上の理由がないのになぜ隠すのかという意見があったことも事実です。ドイツでは、オペラ鑑賞や社交ダンスでの女性の正装は、デコルテを露出し、スリットもあるような服が多く、これには男性目線も絡んでいると考えられます。世間のリアクションが賛否両論だったということは、男女平等の意識があまり進んでいなかった面も浮き彫りにしました」

 また産業界の取り組みとして、2016年に「大手企業は監査役の30%以上が女性登用」と規定されたことを紹介。

「この法律が制定された理由は、フランスや北欧に比べて遅れているという認識があったからです。ドイツの企業では女性が出世しにくい状況があり、女性が育児と家事をやるという昔ながらの考えが長年まかり通っていました。一方で、意識改革への思いが強く、ぱっと切り替わることが出来たのもドイツの特徴です」と説明した。

「スポーツを通して、私はアイデンティティを手に入れた」フリバ・ラザイーさん

3人目の登壇者は、アフガニスタン初の女性オリンピアン柔道家のフリバ・ラザイーさん。来日中のわずかな時間を使っての貴重なお話となった。ラザイーさんの語りは、衝撃的なものだった。

「私はアフガニスタンのハザラ人という少数民族に属しています。タリバンが支配した1990年代、差別と迫害により、私の家族は隣国パキスタンへ逃げ、難民となりました。子供の頃から、自分は兄弟や男性の従兄弟と同じ社会的権利を持っていないことに苦しみ、スポーツでチャンピオンになりたい、男女平等のために働きたい、と夢見ていました」

 2001年、米軍が進軍しアフガニスタン紛争が勃発。タリバン政権は崩壊し、民主化された新政府が成立した。

「私の家族は祖国に戻り、私は女子校に入学することが出来ました。そして、ヨーロッパの非営理団体が少女たちを支援している道場を見つけ、柔道を始めました。その時、スポーツをしている10代の女子は、国全体で私たち3人だけ。私は柔道が得意で、アフガニスタン初の女子選手として2004年アテネオリンピックに出場しました。それは女性のスポーツ革命でした。その後、何百人もの女性や少女が国際的なスポーツに参加するようになり、女性の権利が可視化されていったのです」

 アフガニスタンの民主化は、女性に教育の機会も与えた。

「教育を受けた女性たちは社会で成功するようになりました。選挙に出馬し、ビジネスを始め、ファッションショーや女子ロボットチームなども出来ました」

 しかし再結成されたタリバンとの紛争は20年にわたって続いた。

「2021年8月、中央政府が崩壊し、タリバンが戻ってきた時、すべてがストップしてしまいました。タリバンは女性と少女の教育とスポーツを禁止し、違反した場合には厳しい処罰を課しました」

 ラザイーさんは、国連などのデータを紹介した。

「2001年から18年までの間に、初等教育を受けている女子ほぼ0から250万人にまで増加しました。女性の識字率は17%から30% 近くにまで上がっていたのです。しかし2021年9月以降、アフガニスタンの少女と若い女性の80%、250万人が学校に通うことが出来ていません」

 そして、こう訴えた。

「アフガニスタンは、家父長制からジェンダーアパルトヘイトへと移行してしまいました。少女たちが学校にいく権利を否定されることは、グローバルな、私たち全員の問題です」

最後にラザイーさんは、スポーツの持つ力についてこう説明した。

「私は、柔道をすることによって、権利のために戦い、自分の人生に責任を持つという、自由を手にしました。そしてナショナルチームに参加したときに初めて、アイデンティティが確立されたと思っています」

岩田喜美枝・元全柔連理事「まずは実態把握をし、見える化すること」

4人目の登壇者は、2015-16年に全柔連理事として女性アスリートのための改革に着手された岩田喜美枝さん。2年間で手掛けた改革について説明した。

「理事に就任したとき、何よりも大事なことは、現状をしっかり把握して、何が問題かということを見つけ出すことでした。柔道解の常識は社会の非常識という目線を忘れずに、女性の柔道家の声を代弁しようと志しておりました」

 ヒアリングを経て岩田さんがまとめた課題は4つだった。

「まず黒帯の問題。当時は、有段者の黒帯に、女性は白線が入っておりました。また国際大会の試合では、女性は競技時間が1分短いのです。また日本一を決める全日本選手権も、男子は国技館で行われるのですが、女子は違う場所でした。さらには、柔道女子チームの監督が男性でした」

 そしてこう語る。

「私は柔道と利害関係が全くありませんので、柔道界を追放されても怖くないという覚悟で、出来るだけのことをしたいと考えました。うち2つ(黒帯と女性監督)は実現しましたが、柔道は日本の伝統的なスポーツで、男性が中心なため、女性はまだ格下に扱われているという現状があると感じました」

 理事の任期後、岩田さんは女子柔道振興委員会の活動をサポートし続けている。

「まず育児との両立にむけて、大会における託児室を設置拡大しました。また個人会員資格、指導者資格、審判員資格の特例措置として登録料が免除になる休会制度を設立。転居後の道場探し紹介サイトも運営しています」

さらに女性リーダーの育成・登用として、全柔連理事の女性比率を、2030年までには40%とする目標を提示。また都道府県連盟での女性理事を増やし、女性理事ゼロの県を無くそうと尽力している。

「理事になるだけでは足りません。女性たちが各地で理事として実力をつけて成長し、良い仕事をしてもらう必要があります。都道府県の女性リーダーたちが集まって意見交換をする場を設け、さらなる育成を続けて参ります」

米国NCAAに見る学生アスリートの収益化「契約弱者を守る仕組みが必要」宗像雄・弁護士

最後は、弁護士の宗像雄さんが「学生アスリートの収益化をめぐる問題」として、米国での事例を提示した。

「今日は、まだ解決方法に至っていない、問題提起をさせていただきます。まず、アメリカでは、大学生が自らをMonetize(商品化)することができます。Name,image,likenessを価値として、インフルエンサーやYouTuberとなる道が開かれています」

 そして、学生が自らを商品化していくうえでの、メリットとデメリットを説明した。

「まず、競技活動を継続するために必要な資金を、自ら稼ぐことができます。そして自分の努力に対する正当な評価を受けるため、モチベーションもあがる。さらに、こっそり稼ぐような脱法行為の根絶にも繋がります。しかし、私生活を切り売りすることで平穏を侵され、学業や競技に悪影響が出る可能性があります。また事務所や代理人が介在すること、さらには性加害やセクハラの温床となることなど、さまざまなマイナス面も懸念されています」

 そして、肖像権の管理という視点から、問題を解説した。

「アマチュア選手や大学生の肖像権は、大学が管理していないため自身が自由に利用できます。しかしデジタルタトゥーという言葉もありますが、一度ネットに出たものは消せないという危険性をはらんでいます。まだ若い大学生を、どう守るか。大学やエージェントが肖像権を管理し、守るということも出来ます」

 しかし保護ばかりを進めると、今度は権利を奪ってしまう、という難しさを話した。

「大学やエージェントの介入を認めるということは、入部の際に、肖像権を大学やエージェントが管理する仕組み、書面を作ることになります。それは自由競争から守る一方で、アスリートの正当な権利を奪う可能性もあります。アマチュアアスリートは、契約弱者になりがちであり、これからは契約弱者を守る仕組みの検討が必要となっていくでしょう」

舞台転換の間にストレッチ!

 

トークセッション

また最後のトークセッションでは、5名の登壇者の話を聞いた、企業経営者の杉野裕一さんがこうコメント。

「企業の顧問をしていますが、女性の力のすごさをいつも感じている。岩田さんがお話しされた、全柔連の理事40%目標は衝撃的で、一般企業でいかに女性の力を使えてないかを痛感しました」

 カルティベータの宮嶋泰子・代表理事は、最後にこうまとめた

「スポーツはより強く、より高く、より速くという世界観がありますが、それ以外にももっと素敵な価値がある。スポーツに関わる者たちが、さまざまな魅力をもっと発信していくことで、新たな価値を産んでいければと思います」

動画でもっとしっかり見直したい方は「見逃し配信」を1100円でご覧いただけます。

チケットの文字をクリック↓↓↓

 

次回の女性スポーツ勉強会は1月27日(土)を予定している。登壇者はNHKあさイチでおなじみ産婦人科医の高尾美穂医師、企業が選ぶ弁護士ランキング第一位の木下潮音さん、元スピードスケートの岡崎朋美さん、他を予定。

リポート:野口美恵

野口美恵スポーツライター

元毎日新聞記者。自身のフィギュアスケート経験を生かし、ルールや技術、選手心理に詳しい記事を執筆している。日本オリンピック委員会広報としてバンクーバーオリンピックに帯同。ソチ、平昌オリンピックを取材した。主な著書に『羽生結弦 王者のメソッド』『チームブライアン』シリーズ、『伊藤みどりトリプルアクセルの先へ』など。自身はアダルトスケーターとして樋口豊氏に師事。11年国際アダルト競技会ブロンズⅠ部門優勝、20年冬季マスターゲームズ・シルバー部門11位。

カメラ:三須亜希子

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