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2024.11.11

女性スポーツ勉強会#20 上野千鶴子さん、福永哲夫さん、高尾美穂医師と考える「社会、女性、身体」

Photo by Yo NAGAYA<上野千鶴子さんの中国での大フィーバーを受けて、
東京ウィメンズプラザの会場には中国女子留学生が100人以上詰めかけた>

★女性スポーツ勉強会20回『今、考えよう!「社会・女性・身体」』

上野千鶴子さん、福永哲夫さん、高尾美穂さんが多様な視点を語る

女性がより良い生き方をしていくために学び合う「第20回・女性スポーツ勉強会」が11月2日、東京ウィメンズプラザで行われた。220人の参加者で、会場はほぼ満席に近い状態。

主宰のカルティベータ代表の宮嶋泰子はこう挨拶した。

「世界には家父長制だけでなく、母権社会など、さまざまな文化があり、今の時代を創ってきました。私達に必要なのは、世界各地の文化や歴史をはじめとして、多様な視点を学ぶことです」

そのバックには4世紀にシチリアで作られたモザイク、女性たちのスポーツをする様子が映し出されていた。

「1896に始まった近代オリンピックでは、当初女性は参加不可能で、ようやく今年のパリ五輪で男女の選手比率が同率になりました。しかし、ギリシャローマの時代から、よく調べてみると、女性がスポーツをすることはあったのです。」とその図を指し示した。

そして今回は、スポーツ界にとらわれず、「社会・女性・身体」の3つのテーマを論じながら、より多くの視点で物を考えてみようと提案した。

Photo by Yo NAGAYA


■上野千鶴子さん「女性蔑視発言に対し、被害者にも傍観者にもならないで」

最初に登壇したのは、ジェンダー研究の第一人者である上野千鶴子さん。

Photo by Yo NAGAYA

「日本のジェンダーギャップ指数が125位(2023年)と国際ランキングで低迷していることは有名ですが、その背景を考えることが必要です」

こう前置きした上で、2022年版男女共同参画白書のデータを紹介した。

「男女共同参画白書では、野田聖子・男女共同参画担当相が『もはや昭和ではない』と発言しました。つまり、夫婦と子供のいる世帯という標準家族モデルが合わなくなり、今は単身世帯が増えている。30代の男性3人に1人、女性5人に1人が未婚となり、さらに30代は3組に1組が離婚する時代です」

離婚原因については、3分の1がDVであることについて、上野さんの見解を述べた。

「これは今の夫たちが暴力的になったということではなく、以前から同じようにDVをしていたが、我慢する女が減ったということ。つまり今は『我慢しない女たち』が大量に登場する時代なのです」

また結婚については、収入が大きく影響することについても触れた。

「結婚は男性の年収と相関しており、家族形成コストが高いため、そのコスト負担に耐える人しか結婚しない傾向にあります。むしろ今は妻の所得なしでは家計維持できないのが現状です。女性の就業率は70%を超えており、育児休業が普及したことで、2000年代になってから女は仕事をやめなくなりました」

女性の就労が増えていることについては、問題点を指摘した。

「問題は、女性の10人に7人が働いているけれど、10人に6人が非正規雇用であること。日本は40年かけて、こういう社会を作ってきたのです。初職から非正規の女性が多く、男女に賃金格差があります。大卒女性の賃金が、高卒男性と同じ水準なのです」

なぜ女性に非正規雇用が多く、賃金水準が低いのかについて、これまでの歴史を紹介した。

「1985年に男女雇用機会平等法は整備されましたが、この法律のほとんどが理念法で、強制力がないため変化が実感できないのです。そして同年に成立した労働者派遣事業法がセットになって手と手を取り合ってきた。さらに社会保険制度が時代遅れで、女性の就労を禁止してきている現状が続いているのです」

男女雇用機会平等法が整備されても、女性は非正規やパートで働き、さらに配偶者特別控除のいわゆる「103万円の壁」があることで、女性の就労が妨げられていることを紹介。さまざまなデータを示した上で上野さんは「これは『人災』です」と強調した。

また東京オリンピック・パラリンピック大会組織委員会の森喜朗・元会長による女性蔑視発言についても紹介した。

「『女性が入る会議は時間かかる』と発言したことで、抗議署名が集まり、やめざるを得なかった。署名運動をしたのは20代の女の子たち。『うちの理事さんたちはわきまえてらっしゃる』という発言に対して『わきまえない女』が誕生しました。そして年長の女達も『こんなことは自分の世代で終わりにしたい』と言い出した。全世代に変化が起きていることが感じられた出来事でした」

女性蔑視発言に対して、若者が動いたことを高く評価し、「被害者も傍観者にもなってほしくない。『ちょっと待った』と言えることが大切」と上野さんは訴えた。

Photo by Yo NAGAYA

■福永氏「老化を防ぐには貯筋運動が必要」

Photo by Yo NAGAYA

続いて登壇したのは、筋肉の専門家である福永哲夫・東京大学名誉教授で国立鹿屋体育大学の元学長。「使って貯めよう筋肉貯蓄〜貯筋で老化防止」と題し、筋肉と運動の関係について紹介した。まず福永さんは、こう挨拶した。

「従来、健康のために推奨されてきた運動は有酸素運動でした。そこに去年からは、筋力トレーニングも必要だというステートメントが入ってきました」

筋力トレーニングの必要性を説明するにあたり、まず「筋量」と「筋力」と加齢の関係性を表したデータを示した。

「まず女性の筋量は男性の7割という性差があります。そして上腕の筋量は歳をとってもあまり落ちないのに対し、太腿の筋肉や腹筋は、年齢と共に減っていきます。一方、肘を伸ばす・曲げる、膝を伸ばす・曲げるといった筋力については、50代以降、急激に減少していきます」

そして筋量と筋力の関係について、面白いデータを示した。

「筋量は年齢とともに減り、70歳で20%減。しかし筋力は、40%減となります。なぜ筋力が筋量に比例しないのでしょうか。実は、筋量があれば力が出るかというと、違う。これは脳神経系が老化し、伝達できていないからです。力を出そうというメッセージを脳が出し、神経が伝達し、筋肉が動く。この3つが機能しなければ、筋肉は動かないのです」

では脳神経系を衰えさせないためには、どうしたら良いのかーー。

「脳を鍛えるには、運動しかありません」と福永先生。そして筋力を維持するために必要な運動について話した。

「日常生活の動きでは、筋力の維持につながりません。歩く程度の活動では筋肉の5〜10%、速歩きや階段昇降も10〜15%程度しか使われません。有効なのは、筋力トレーニングです」

そして、簡単にできるトレーニングを、福永さんが作った言葉「貯筋」を使って紹介した。

「自宅で簡単にできる貯筋運動(筋トレ)を週に30分から1時間ほど行うことで、筋量と筋力を増加できます。有効なのは、椅子を使ったスクワットや、腹筋。デイサービスの施設でスクワットと腹筋を継続したところ、高齢者の筋力が上がり動作が速くなるという効果が実証されました」

貯筋を通じて、心血管疾患発症リスクの軽減や、寝たきりの予防につながることを紹介し「老化を防ぐには貯筋運動が必要」と訴えた。

福永教授の提唱する「線路は続くよいつまでも」を替え歌にしたスクワット運動」を会場の全員で行うことに。

Photo by Yo NAGAYA
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■高尾さん「女性が、楽に生きていける方法を賢く選択する時代」

最後に、産婦人科医の高尾美穂さんが登壇。女性ホルモンとライフサイクルの関係について紹介した。

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「女性の卵巣から出されるエストロゲンは、血管の弾力性を保つ、コレステロールを低く保つ、髪をつややかに、肌の弾力性を保つなどがあります。これがアップダウンを繰り返し、そして更年期を境に急激に減少する。女性の人生は女性ホルモンに揺さぶられるといって過言ではありません」

そしてホルモンの変化を知ることで、自分のライフサイクルでの疾患や悩みを、ある程度知ることができると説明した。

「初潮を迎える時期の体の変化に対する不安、生理前の不調、生理中の腰痛や腹中、妊娠の悩み、望まない妊娠、妊活、不妊治療、産後の子育て、更年期、心の不調。どの年代にどんなことが起こるのかはか分かっています。もちろん、それでも悩むものです」

また、女性の労働に視点をあて、こう話した。

「以前はM字カーブといって、女性は妊娠・出産・子育ての時期は仕事を辞めていたものを、いまは働きながら子育て・介護・家事をこなす。生理を抱えている時期にキャリアを積んでいくことになり、さらに、ちょうど更年期の頃に管理職世代となります。更年期はすべての女性が経験し、不調を感じるのが6割、生活に支障が出るのが3割と言われています」

更年期の症状として、汗や動悸、顔がほてる、手足が冷えやすい、イライラする、うつっぽい、頭痛・目眩などを紹介。更年期が終わっても、諸症状が収まらない場合もあるとした。

「更年期が終わっても調子の悪い方もいらっしゃる。ゆらぎの時期にどう対処するか。産婦人科ではホルモン補充療法といって、ホルモン量の3分の1を足すだけで様々な症状が改善するという治療もあります。そのほかエストロゲンに分子構造の似た大豆を摂取するもの、漢方、カウセリングなど、効果が期待されているものもあります」

乳がんの経験者などは注意が必要なので、誰もがあてはまる治療ではないが、さまざまな選択肢があることを紹介した。

女性のライフサイクルと健康について学ぶことの大切さを伝え、最後に高尾さんはこうメッセージを送った。

「女性が、楽に生きていける方法を賢く選択する時代です」

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高尾医師から「更年期鬱は90%がカウンセリングで治る」というと、続くシンポジウムでは上野千鶴子さんから「それは夫が悪い」と発言があり、会場は大爆笑。米国で女性の権利のために連邦最高裁判事として85歳を過ぎても活躍したルース・ベーダー・ギンズバーグがパーソナルトレーナーについて筋トレをしていたことを振ると、上野千鶴子さんも、「私もパーソナルトレーナーについて筋トレをしております。ちょっと頻度が少なすぎるかもしれませんね」と笑みを浮かべるなど、終始、和やかな雰囲気で行われた勉強会だった。

Photo by Yo NAGAYA
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さまざまな立場と視点から、社会と個人について考えた「第20回・女性スポーツ勉強会」。アスリートも社会のことを考える必要性、さらには社会アクティヴィストも個人の身体を考える大切さを再認識した時間だった。

次回はカルティベータ5周年記念を兼ねて、3月8日土曜日、アーティスティックスイミングの指導者・井村雅代さん、柔道家の山口香さん、内村航平さんの母で体操競技指導者の内村周子さんをお招きする。会場は同じく東京ウィメンズプラザ・ホール。

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