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2023.03.06

宮嶋泰子、女性アスリートについて大いに語る。女性アスリート健康支援委員会の記事を転載 (3)トップ選手に多い生理不順  ~「アスリートこそ定期的に婦人科でチェックを」

トップ選手に多い生理不順 
~「アスリートこそ定期的に婦人科でチェックを」~

 テレビ朝日でアナウンサー、キャスター、ディレクターとしてスポーツ報道やニュース番組で活躍し、計19回の五輪現場取材を通じて多くの内外有力選手を密着取材してきた宮嶋泰子さん(一般社団法人カルティベータ代表理事)に、女性特有の悩みを抱えながらも世界の頂点を目指してトレーニングに励んだ女子トップ選手の知られざる苦心・奮闘ぶりを語っていただきました。スポーツドクターの先駆けとして長年活動され、国立スポーツ科学センター長なども歴任された「一般社団法人女性アスリート健康支援委員会」の川原貴会長にオブザーバーとして参加していただきました。

 ―宮嶋さんは、1980年モスクワ五輪から2018年平昌五輪まで19回も五輪を取材されました。この間、アスリートを密着取材されて多くの選手と接してこられました。女性特有の部分を含めて印象に残った選手を教えてください。

アルベールビル五輪  スピードスケート女子1500メートルで3位に入り、冬季五輪史上日本女子初のメダルを獲得した橋本聖子さん

アルベールビル五輪 スピードスケート女子1500メートルで3位に入り、冬季五輪史上日本女子初のメダルを獲得した橋本聖子さん

 「橋本聖子さんですが、92年のアルベールビル冬季五輪のことです。五輪前にインスブルックで合宿をしていて、急に生理になりました。お腹が痛くて、海老反りするくらい、たまらなく痛かったそうです。アスリートって体脂肪が少ないし、どちらかというと生理が不順な人が多く、正常な人は少ないです。そういう中で、『また、いつものか』『アスリートは生理不順で当たり前』みたいに言われているから、婦人科に行かなくなります。橋本さんの、あの状況を見ると、アスリートこそ定期的にきちっと婦人科に行ってチェックしないといけないと感じました」

 ―その点について川原会長はご専門だと思いますが、いかがでしょう。

 川原会長 生理の時、月経困難症となった際に、ベースにいろんな病気がある場合もあるので、月経困難症が強い場合は受診した方がいいですね。病気がないかどうかを確認し、ひどい場合は対症療法があります。ホルモン剤を飲んだりします。特に何か病気がある場合は継続的に飲んだりもします。

 ◇ピルはドーピング対象外

 ―日本では、トップアスリートは周りからの教育がしっかりしていないので、例えば、鎮痛剤とかピルとかを避けがちになることがあります。

 「ピルって、みんなドーピング(禁止薬物使用)だと思っているんです。ピルで月経周期や痛みをコントロールできるのに、それを知らずに損した選手や苦しんだ選手がたくさんいます」

 ―男性指導者が多いから、そういったことをきっちり教えられないようですね。

 「88年カルガリー冬季五輪のショートトラックの金メダリスト、獅子井英子さんですが、彼女はあの時、ピルを飲んでいました。やはり、その人の考え方や、しっかりコントロールしたいとか、そういう個人の考え方があるんだろうなと思います」

取材を受ける宮嶋さん

取材を受ける宮嶋さん

 ◇NFに求められる女性医師の多用

 ―獅子井選手はまれなケースで、NF(国内各競技団体)の女性選手に対する支援体制が日本では立ち遅れていると思いますが。

 「そもそもNFには女性の理事が少ないです。でもヨット協会は、とても早い段階で国体のヨット大会には託児システムをつくり、ベビーシッターも用意しています。その提案をされたのは女性の理事です。それで、お子さんがいらっしゃる選手も参加できるようになりました。女性と男性とでは発想が違います。男性が女性の立場になって考えられることは少なく、女性選手への支援体制について的確な提言は思いつかないようです」

 川原会長 この女性支援委員会のインタビューでスピードスケート選手を掲載しました。スケート連盟は指導者や選手にしっかり教育し、女性支援に対応できる仕組みをしっかり整えているとのことでした。

 「スケート連盟では、派遣する帯同医師に女性がいらっしゃいました。そういう女性ドクターが選手からいろいろ相談を受けています。やはり女性が医師だと、女性選手は相談しやすいはずです。反対に、日本陸連は女子委員会を無くしてしまいました。国際陸連(現世界陸連)の女子委員会に入られていた田中良子先生が怒っていらっしゃいました。日本女子初の五輪メダリストの人見絹枝さんは早世(24歳)されたのですが、亡くなる直前まで、『女性には女性のトレーニングがある。女性の身体は男性と違うので、(生理の)サイクルも含めていろいろと対応しないといけない』と言っていたと伺いました。人見絹枝さんは、女性の強化システムをつくるというのを目標に掲げながら、早くに亡くなってしまいました。女性が女性の選手を育てられるようなシステムの必要性を、人見絹枝さんが言っていた時代から、もうすぐ100年ですよ」

 ◇前十字靭帯損傷の要因は出産後の骨盤の広がり

 ―女性と男性では当然身体の構造が違います。

 「トレーニングのプロセス、筋肉の強化って男性と女性とでは大して変わらないと思うかもしれませんが、『ママになってもスポーツがしたい』というシンポジウムで、7人制ラグビーの日本代表で16年リオデジャネイロ五輪に出場した兼松由佳さんの発言が衝撃的でした。彼女はママさん選手ですが、出産した後、前十字靭帯を何度も切っています。これは女性の身体の特徴からくるものなんですね。早大の福林徹名誉教授によれば『女性は骨盤が広くできているから、どうしてもX脚になりがちで、靭帯を切りやすい』とのことです。ニー・イン・トゥ・アウト、これが前十字靭帯を切るケースが多い状態です。ニー、膝が中に入って、アンクル、足首が外に向くケースです。女性が前十字靭帯を切る比率は男性の5倍から8倍と言われています。なぜこんなことが起きるのかというと、男性の場合は接触とか物理的衝撃で前十字靭帯が切れてしまいますが、女性は自損が多いのです。ターンをした際や、急に動いたときに切ってしまいます。もともと骨盤が広い選手の場合や、また出産のときに骨盤が広がったことが理由です。骨盤矯正は出産後の女性選手で一番必要なことです。これをやらないとフィギュアスケートでは回転ができなくなります。女性アスリートのトレーニングの中で骨盤に対する意識もあまりないですね。これが大変重要で、特に回転系の競技は重要となります」

 ―私の勉強不足もありますが、このようなことは知りませんでした。

 「なぜ、このような話をしたかというと、生理だけでなく、女性と男性の違いというのが骨格からしてあるので、トレーニングのプロセスとかも当然違ってくるわけです。だから本当は女性用のトレーニング方法を開発しなければならないし、それ専用の研究もしていかなければいけないにもかかわらず、『陸連さん、どうしたの』という思いはありますね」

サッカー女子W杯・ドイツ大会で初優勝を決め、喜ぶ「なでしこジャパン」(EPA=時事)

サッカー女子W杯・ドイツ大会で初優勝を決め、喜ぶ「なでしこジャパン」(EPA=時事)

 ―女性の社会進出や男女平等も大切ですが、体のつくりが男性と女性とでは違うので、その意味での平等はないですね。

 「司会の方のように男性ですと、前十字靭帯を切るのが女性に多く、だから女性が弱いと思う人だっていますし、女性がスポーツをすることを長い間禁止されてきたのは、そういう理由だと思ってしまうかもしれません。そうではなくて、それ相応の準備運動とかすればいいわけです。今、国際サッカー連盟(FIFA)には『The11+(イレブンプラス)』というのがあり、ウェブサイトでも見ることができます。イレブンプラスの中には、前十字靭帯をストレッチ等でしっかり伸ばして強化するトレーニング方法が書いてあります。いろんなデータから女性はこういうことをした方がいいという教えが示されており、女子の『なでしこジャパン』でも活用されています。こういうことが、とても大切で重要となります」(了)

連載趣旨と略歴

 宮嶋泰子(みやじま・やすこ) テレビ朝日にアナウンサーとして入社後、スポーツキャスターを務め、スポーツ中継の実況やリポート、ニュースステーションや報道ステーションのスポーツディレクター兼リポーターとして活躍。 1980年のモスクワ大会から平昌大会まで五輪での現地取材は19回に上る。2016年に日本オリンピック委員会(JOC)の「女性スポーツ賞」を受賞。文部科学省中央教育審議会スポーツ青少年分科会委員や日本スポーツ協会総合型地域スポーツクラブ育成委員会委員、JOC広報部会副部会長など多くの役職を歴任。20年1月にテレビ朝日を退社、一般社団法人カルティベータ代表理事となる。

(2022/10/21 05:00)

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