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2023.03.30

成熟した社会のスポーツと地域。 オランダではスケートリンク立て替えを市民が訴え、議会のゆくえを子どもも注視!

市民にとってのスポーツを考える <オランダから>

Written by 八木美保子 オランダ在住

日本各地で桜が見頃を迎えているころ、オランダでは小さなスケート場(一周約180m)が47年の歴史に幕を下ろしました。

アムステルダムとロッテルダムの中間にある人口12万5千人ほどの街ライデンにそのスケート場はあります。ライデンにはライデン大学日本語学科や日本庭園、シーボルトの家など日本にゆかりのある場所も多いのでご存じの方もいらっしゃるでしょう。画家レンブラントが生まれた街でもあります。

そんなライデンの周辺にはスピードスケート、ショートトラック、フィギュアスケート、アイスホッケーなど20を超えるクラブがあります。そのクラブが活動していた冬の拠点がこのスケート場です。我が家も親子ともども大変お世話になりました。

<トレーニング中の次男三男と子供達>

<試合中コーナーを回る長男>

実はこのスケート場は以前から建て替えの必要性が再三叫ばれてきました。

スケートを始めたばかりの子供たちには丁度良いサイズなのですが、体が大きくなりスピードが出てくる中学生くらいになると、小さなコーナーを回り切れずにフェンスに激突する子が続出します。勝ちたい気持ちが全面に出るクラブ対抗などの試合となれば尚更です。

またこれだけ競技人口がいるにも拘わらず設備も古く、全てにおいて手狭でした。

そこで、2008年4月、遂に周辺のスケートクラブが立ち上がり、新スケート場(400m)の建設をライデン市に嘆願することになりました。

各クラブのユニフォームを着たクラブ関係者と子供達が市役所前の広場に集まり窮状を訴えました。私と子どもたちも参加しました。そしてその後、私達は議会の中に通され、新スケート場建設に関する討論を見学することが出来たのです。

<ライデン市役所前の広場で建て替えを訴える関係者>

<ライデン市議会を見守る子供達:黄色のボーダーシャツが三男、赤のボーダーシャツが次男、その奥が長男>

<後の子が持つ横断幕 ”Wees wijs, Geef ons ijs“(こういう時も韻を踏んでいるところ素晴らしいですね)「賢くなって私たちに氷(リンク)を」(直訳)>

<建て替えについて議論中の市議会>

スピードスケート王国と言われているオランダでは、スケート場は庶民にとっても欠かすことのできない施設です。

自治体も建て替えの必要性は認めるものの、建設費や維持費などクリアしなければならない問題は山積です。実際私も具体的な金額を聞いて、「これは難しいだろうな」と思ったことを覚えています。

当時は、周辺市町村の共同出資や協力なしにライデン市単独での建設は難しい、ということでした。スケート場建設に前向きな他の近隣自治体がライデンとは別の場所に400mのスケート場を建設する案も浮上しましたが、その計画も実現しないまま、その後もずっとこの小さなスケート場が地域のスポーツを支え続けてきました。

そして15年経ち、やっと新しいスケート場がライデン市内の別の場所にオープンすることになったのです。

https://sleutelstad.nl/2021/03/03/bouw-nieuw-zwembad-en-ijshal-aan-de-vliet-start-deze-zomer/

残念ながら400mのリンクはかないませんでしたが、それまでは一周180mだったものが250mになり、コーナーも緩やかになったリンクが来シーズンには完成する予定です。

最近ではスケート場だけでは無く、プールなど他の施設を併設するのが流行りの様です。環境に優しい、エネルギー効率の良い施設になるそうです。

スケート場営業最終日、私も三男と一緒にひと滑りしてきました。大勢の人が詰めかけ、いろいろな思い出話をしたり、名残り惜しそうに滑ったり、イベントに参加したり、思い思いに楽しんでいました。

<「スケート場営業最終日1976-2023」というカードを持って記念撮影>

<最後の滑走を楽しむ人々>

<すっかり大きくなった三男>

<体験コーナー>

滑りながら当時はまだ幼かった三男に、市議会に建て替えの嘆願に行った時のことを覚えているか聞いてみたところ、忘れられない思い出だ、と言っていました。

15年前の私達の小さな行動がどれだけ今回の建て替えに影響を与えたのかはわかりませんが、その後もきっとあきらめず、断続的にいろいろな働きかけをしていったのでしょう。大人だけでなく、子供達も巻き込んで行動を起こすこちらの人たちのパワー、そして行政をも動かそうというスケート愛はすごい!と改めて感じました。

色々な思い出が詰まったスケート場、そして長男のスケートキャリアの出発点が取り壊されることは寂しく思いますが、これから新たな50年の始まりでもあります。人々が安全にスケートを楽しむことが出来る新施設の完成が楽しみです。

オランダ人のスケート愛は冷めることを知らず、今後も続いていくことでしょう。そして、オランダに住みながら、改めてこの国の成熟した社会の在り方を感じています。

<八木美保子>

プロフィール

1991年7月、風車建設会社の4代目と結婚する為にオランダに移住。 その後、母一人で4人の子どもを育てる。長女の舞さんはオランダ公共放送のジャーナリスト。26歳の長男、開さんはカイ・フェルバイいう登録名で2017年2月の世界スプリント大会で総合世界記録をマークして総合優勝している。双子の暖さんと蓮さんは23歳。

<八木美保子さんと4人の子どもたち>

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