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2021.05.15
スポーツ・芸術・文化 世界の国から 社会を変える!

 アフリカンダンスは実は治療だった?!

Reported by 宮嶋泰子

アフリカというのは東洋に住む我々には未知の部分がたくさんあるように感じます。

先日、アフリカのマラウイで外科医師として活動をしながらアフリカの文化や考え方に触発され、医療人類学をもご専門として研究なさって来た杉下智彦教授にお話を伺う機会がありました。

<前列向かって左が杉下医師>

 

医療人類学・・・それは私が初めて聞く言葉

アフリカでは西洋的な観点から、「あなたの身体には今この病原体がいますから、この薬を飲んでください」と言っても患者は納得してくれないのだそうです。患者は「なぜ品行方正に生活をしている私が病気になって、破天荒な生活をしている奴がならないんだ。私がどうして病気になったのか、そっちを説明してほしい」と言ってくるのだそうです。地元の古くからの医師や薬草師はそうした患者に、「あなたは古くからのおきてを破って、あの岩の下で寝たから」などとストーリーを伝えて、納得をさせるのだそうです。

「病いは文化である」という立場から、病気を社会や文化などのさまざまな側面から切り込んでいくのが「医療人類学」なのです。

夕方になると踊りだす村人たち 

杉下医師が青年海外協力隊に応募し、訓練を経て赴任したのはマラウイ共和国南部のゾンバという田舎の町でした。夕方になると、わらわらと人々が集まってきて、気づくと皆踊りだすのだそうです。

それは一日の労働を終えて神への感謝を告げる歌と踊りでした。村人の中には障がいを持っている人もいますが、彼らも一緒になって踊りだす。これがコミュニティーのつながりの核になっていたそうです。

さらにみんなが歌いながら踊っていると、そのうちにレロレロレロと叫び出すレロレロおばさんが出現してきます。レロレロとは、実は先祖の話す言葉であり、おばさんたちはトランス状態で先祖の世界に入り込んでいるのだそうです。

彼女たちはしばらく激しく踊ったあと、女性リーダーや協会の指導者の掛け声とともに、再び現世に戻ってきます。その戻ってくる瞬間、おそらく脳内快楽物質と言われるエンドルフィンが脳内に大量に出るため、恍惚とした表情となり、身体が整っていくのを感じます。

<エンドルフィン(endorphin)は、脳内で機能する神経伝達物質のひとつで、 内在性オピオイドであり、モルヒネ同様の作用を示します。 特に、脳内の「報酬系」に多く分布して、 内在性鎮痛系にかかわり、また多幸感をもたらすと考えられているものです。>

魂のジャーニー、魂の浄化の過程ともいえる先祖の世界と現世を行ったり来たりできるということは、どんなに辛いことがあっても恍惚とした向こう側の世界にいくことができる、という自信につながります。また先祖の世界は平等で貧困や飢餓もなくパラダイスであるという考え方があるそうで、その世界を体験できたことは自らの心の安寧にもつながります。

踊りやダンスが消滅化?!

踊り、ダンスはアフリカでは身体を整える治療のような働きをすると知って、驚くことしきりでした。

 しかし昨今では、アフリカの各地で見られた、踊りによって築かれてきたコミュニティーや、住民たちの魂のジャーニー体験も、グローバリゼーションによる現代社会の均質化によって、だんだん消滅し始めているようです。民族や年齢、性別の壁を越えて、信頼を紡いできたダンスを踊らなくなることで、部族間対立やテロによる政府への攻撃、性差別などが増えているように思えます。アフリカにおける歴史観や生死観などの文化の根幹が揺らぎ始めているのは悲しいことです。

現代アフリカでは、踊りに代わって盛んに行われるようになってきたものに、スポーツがあります。踊りが持っていた、一定のルール(リズム)を通して人々が共感しあいながら集団で行う身体活動は、西洋から入ってきたスポーツという活動にとってかわられるようになってきました。果たしてスポーツの活動は、アフリカのダンスのようにコミュニティーの核を作ることができるのでしょうか。

社会の分断が顕著な現代社会にあって、スポーツの真の力が試されていると言ってもいいかもしれません。

  • 杉下智彦教授      
  • 1990年に東北大学医学部を卒業。聖路加国際病院で外科医として勤務したあと、東北大学心臓外科医局にて心臓移植の研究を行う。1995年に青年海外協力隊として、マラウイ共和国の国立ゾンバ中央病院に赴任。3年間の活動を経て、ハーバード大学公衆衛生大学院で国際保健学を、ロンドン大学アジア・アフリカ研究大学院で医療人類学を修学。その後、タンザニア共和国モロゴロ州保健行政強化プロジェクトのリーダーを務めたのを皮切りに、国際協力機構(JICA)のシニアアドバイザーとして、アフリカを中心に世界各国の保健システム構築に関わる。現在は東京女子医科大学医学部にて国際環境・熱帯医学講座の講座主任として活躍しながら、引き続きアフリカを含め世界各国の支援を続けている。

執筆者紹介:宮嶋泰子

スポーツ文化ジャーナリスト 元テレビ朝日スポーツコメンテーター (一社)カルティベータ代表理事

テレビ朝日にアナウンサーとして入社後、スポーツキャスターとして仕事をする傍ら、スポーツ中継の実況やリポート、 さらにはニュースステーションや報道ステーションのスポーツディレクター兼リポーターとして自ら取材し企画を制作し続けてきた。
1980年のモスクワ大会から平昌大会までオリンピックの現地取材は19回に上る。43年間にわたってスポーツを見つめる目は一貫して、勝敗のみにとらわれることなく、 スポーツ社会学の視点をベースとしたスポーツの意味や価値を考え続けるものであった。2016年には日本オリンピック委員会からの「女性スポーツ賞」を受賞。

1976年モントリオールオリンピック女子バレーボール金メダリストと共にNPOバレーボール・モントリオール会理事として、 日本に定住する難民を対象としたスポーツイベントを10年以上にわたり開催、さらには女性スポーツの勉強会を定期的に行い、 2018年度内閣府男女共同参画特別賞を受賞。

外部の仕事として文部科学省中央教育審議会青少年スポーツ分科会委員や日本体育協会総合型地域スポーツクラブ育成委員会委員、 日本オリンピック委員会広報部会副部会長、日本障がい者スポーツ協会評議員、Bリーグ理事、日本新体操連盟理事等多くの役職を務める。

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