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2021.04.20
スポーツ・芸術・文化 世界の国から

オランダの住まい コロナ禍にクマのぬいぐるみ⁈

Reported by 吉村 奈穂

外とのつながりを感じさせるオランダの家と住まい方とは

初めてオランダを訪れた時、町並みの美しさに目を奪われました。

オランダの町並みというと、アムステルダムの運河沿いに細長いカナルハウスがぎっしりと並んでいる光景を思い浮かべる人も多いと思います。アムステルダムやオランダのその他の都市の中心部(旧市街)の建物は、17世紀のオランダ黄金時代に建てられたものも多く、壁や窓周り、破風(屋根の縁)などに豪華で凝った装飾が施されていて、街を歩くとその荘厳さと重厚感に圧倒されます。

<<※写真引用元;①>

「住」にこだわり、カーテンを閉めないオランダ人

ただ、それ以上に私がビックリしたのは、多くの家が窓のカーテンを開けっ放しにしていたり、カーテン自体を付けておらず、家の中が丸見えだという事です。通りを歩くと、カナルハウスの細長い窓越しに、食卓を囲んでいる家族、ソファでテレビを観ながら寛いでいる家族、デスクでパソコンに向かっている人、キッチンで料理をしている人、はたまたベッドがすぐそこに置いてある家もあり(さすがに住人がベッドで寝ている姿は私は見た事がありませんが)、人々の生活の様子が垣間見えます。通りから窓越しに奥の裏庭まで見通せる家もあります。暗くなって照明を点けてもカーテンは閉めない家も多いので、夜はますます家の中が丸見えになります。

<観光客が多い街中でも、カーテンを閉めていない家が多い。ただ、光の反射もあり、昼間は立ち止まって近づかない限り、意外と中は見えにくかったりもする。 ※写真引用元;①>

<夕方照明が点けられると、遠くからでも部屋の中が丸見え。 ※写真引用元;①>

カーテンを閉めていない家というのは、他の欧米の国でも見られるようですが、特にオランダには多いと言われています。これには質素倹約を好むプロテスタントの影響があり、家の中に何もやましい事はなく質素に暮らしていますよという証明としてカーテンを閉めないのだ、という説があるそうです。ただ、オランダは一年を通じて天気が悪く日光が当たらない日が多いので、少しでも部屋の中を明るくするためだとか、単に素敵なインテリアを見せびらかせたいのだといった説もあり、確かに現代ではそういった要因の方が強そうな気がします。

実際、窓越しに見える室内はどの家もとてもきれいでオシャレな事に感心します。通りを歩いていると、外観は古い歴史的な建物でありながらも、内装はきれいにリノベーションされ、モダンでセンスの良いインテリアでまとめられた部屋が多く、それらがショーウィンドウのように次々と現れるので、日本に住んでいた頃に初めて旅行でアムステルダムを訪れた時は、思わず歩を緩めて何度もチラチラ中を覗いてしまいました。

カーテンが開けっ放しで室内が丸見えという傾向は、都市(stad)の旧市街よりも郊外や村(dorp)の方がさらに強い気がします。都市の中心部より道路の幅が広く通行人も少ないため外からの目線は気になりにくいのでしょうが、郊外や村の比較的新しい家は窓が大きいものが多いので、より中が見えやすく、正直、逆に目につきやすいです。また、室内が丸見えな家が田舎の方に多いのは、昔ながらのプロテスタントの風習が今も都会より残っているから、なんていう要因もあったりするのでしょうか…?

旧市街の建物のように凝った装飾は少なく、外観はシンプルな家が多いとは言え、特に夜、大きな窓がスクリーンのように並び、それぞれの家の暖かい灯りと美しいインテリアをぼんやりと映し出す光景はとても印象的で、それ自体が建物とセットになって独特の素敵な町並みを作り出しているようにすら思えます。

<郊外のアパートメント。各家の窓がまるで個性を競っているかのよう。>

<夕方、照明が点けられ、家の中の美しいインテリアを映し出す大きな窓が通り沿いに並ぶ光景は、もはや何かのエキシビションのようだ。>

<大きな窓の下部には幅の広い窓台が設置されていて、大きな花瓶やプランター、ランプ等が外からも見映えの良いよう並べられている。>

<ある日の夕方、筆者義実家のリビングの様子。こんな風に通りすがりにちらっと見るだけで、観ているテレビ番組も一瞬で分かります(笑)。>

プロテスタントの影響で、オランダの人は全体的に質素な生活を好み「衣」「食」にあまりお金をかけないと言われています。このためケチとしても有名なオランダ人ですが、こと「住」に関しては別で、衣食住の中で一番「住」を重視しお金をかけているそうです。残念ながらオランダの外食は値段が高く、年に数回本当に特別なオケージョンにしか利用しない家族もいるくらいですが、その分、家でゆっくり家族と過ごす時間を大切にしている人が多いようです。だからこそ、「住」にこだわる人が多いのでしょう。実際、住まいに関連した雑誌はもちろん、テレビを点けていてもインテリアやDIY、ガーデニング関連の番組がやたら多い事に驚きます。それだけ多くの人が住まいに関心とこだわりを持っているという事ですね。

こうして作り上げた素敵な家のインテリアを他の人にも見せたいがためにカーテンを開けるのか、カーテンを開けて過ごしたいという心理が先で、そのためにインテリアにもこだわっているのかは定かではありませんが、いずれにしてもそこで感じられるのは「外への意識」です。

大きな窓辺にセンスよく配置された花瓶やプランター、ランプにキャンドル。前庭にはベンチやテーブルが置かれ、その上には何かのお店かと見間違うほどのオシャレなディスプレイ。自分たちが満足して快適に暮らすためというのはもちろんですが、同時に外に向けて個性を主張したり、外の人の目をも楽しませようとしているように思います。

また、天気が良く暖かい日に通りを歩くと、家の前でベンチに集まってビールを飲んでいる人達から通りすがりに’Hoi!’と声をかけられたり、ご近所さん同士が窓越しにおしゃべりしている姿が見られたり…

オランダの人は全体的におしゃべり好きでオープンな人が多いイメージなのですが、そのため家においても外との繋がりを持とうとする傾向が強いのかもしれません。家には本来、パブリックな空間とプライベートな空間を分けるものという側面があると思いますが、オランダの人の家では、結果的に中(プライベートな空間)と外(パブリックな空間)の境界があいまいになっている⁈と考えると、面白いなと思います。

<前庭がお店のディスプレイのように飾られた家。窓越しに奥の庭まで見通す事ができる。>

<アムステルダムの街中で、家の窓越しにご近所どうし世間話中の男性達。写真撮影にも気さくに応じてくれた。>

子供たちのために窓辺にクマのぬいぐるみを置く人々

オランダは去年の3月15日、コロナ対策のため初めてのロックダウンに入りました。日曜日の夕方に政府の発表が行われ、それから1時間も経たない18時以降、全ての飲食店の営業が禁止されるといった厳しい内容でした。翌日からは小学校なども閉鎖されてしまいましたが、出かけられる場所が少なくなってしまった子供達のために、ほどなく家々の窓辺にクマのぬいぐるみが置かれるようになりました。これは’berenjacht’ (オランダ語で「ベアハント」の意味)と呼ばれ、元々はイギリスやオーストラリアから始まった活動だそうですが、子供達が家の周りを散歩する時に、近所の家の窓辺のクマを探しながら少しでも楽しめるようにしようというものです。クマの置いてある場所の地図が見られる専用のFacebookページまで作られ、まるでポケ◯◯ GOのように子供達はゲーム感覚でクマ探しを楽しむ事ができたようです。

この素敵な取り組みも、見方を変えると、家の中から外へ向けたメッセージであり、クマのぬいぐるみによって家の中と外が緩やかに繋げられていると言えるかもしれませんね。

<昨年春のロックダウン中には、このようなクマのぬいぐるみが多くの家の窓辺に見られた。>

また、オランダでは、赤ちゃんが産まれた時に、通りに面した大きな窓に’Hoera! Een Jongen (meisje)!'(バンザイ!男の子(女の子)が生まれたよ‼︎)といったメッセージを吊るしたり、かわいい飾り付けをしたりして、赤ちゃんの誕生を外の人に知らせる習慣があります。街を歩いていてこの飾り付けを見つけると、こちらも何だかホッコリした気分になるのですが、ここでもオランダの人のオープンな性格と、それゆえに家の中と外の境界があいまいになっているオランダらしい住まい方が感じられます。

<男の子が生まれた家の窓飾り。ガラス越しに、家の中で赤ちゃんを抱っこしているお父さんと思われる男性の姿が見えた。>

<こちらはKleinzoon(男の子の孫)が生まれた事を知らせる飾り。孫バージョンは初めて見ました。>

<こちらは先日のイースターの時の窓辺のディスプレイ。>
<カーテン閉められてますが、ディスプレイが映えるように敢えてそうしているのだろうな、と勝手に推測しています(笑) ※写真引用元;① >

日本の昔の家はオランダの家より開放的だった⁈

日本では、江戸時代の典型的な町家の多くは、「うなぎの寝床」と呼ばれるように、間口が狭く奥に長い形状になっていました。通りに面した間口の広さに応じて税金が課されたために、町家はこのように奥に細長い造りになったと言われています。ちなみにこれは、まさにアムステルダムのカナルハウスの間口が狭い理由と全く同じです。町家では、「通り庭」と呼ばれる細長い土間が表の入口から裏庭まで続き、この通り庭に接して手前から奥へ、店の間(表の間)、中の間、奥の間…と部屋が一列に並ぶのが典型的なプランです。普段は、部屋と部屋や通り庭との間は襖や障子等の建具で隔てられていますが、祭礼などの特別な時には、通りに面した建具や、部屋どうしを隔てる建具は取り外され、家の奥まで広く開放する事ができるという特徴がありました。

この点に注目すると、日本でも昔の家では中と外の境界があいまいで、緩やかな空間的つながりがあったのだなと思います。(そういう意味では、日本家屋に特有の縁側も、家の中と外を緩やかにつなげる効果があると言われていますね。ただ、それは欧米建築のテラスやベランダにも同様に言える事ですが。)

昔から部屋どうしが壁やドアで隔てられ可変性の少ない構造であった欧米の家に比べると、むしろ日本の昔の家は、物理的にはより開放的だったと言えるかもしれません。

<重要伝統的建造物群保存地区に指定されている長野県・奈良井宿の街並み ※写真引用元;②>

<奈良井宿・上問屋史料館内部。建具が開放され、風通しがよく非常に開放的な造りになっている。>

<奈良井宿・鎮神社祭礼時の様子。 ※写真引用元;② 通りに面した建具を取り外して家の中まで広く開放し、座布団を敷いてお囃子やお神輿をお迎えする。>

<夜は、ますます家の中が丸見え。 店の間(表の間)に屏風等を立ててお祭り用の特別な室礼を施す家もある。※写真引用元;② >

現代の日本の家と住まい方

現代の日本には、洋風の(壁やドアが固定された)造りの家が多く、それに加えて、何よりも生活の中でプライバシーや防犯性が重視されるので、日中でもレースのカーテンは閉めたままというのが一般的だと思います。そのように、窓にはカーテンや格子、更に敷地境界には高めの塀や生垣…と、とにかく家の中と外を分けようとする傾向があるのは、プライバシーや防犯だけでなく、公と私、表と裏、建前と本音を分けるといった日本人独特の概念も影響していたりするのでしょうか。ただ、昔の日本の(襖と障子で部屋が隔てられていた)家は、祭礼時などのハレの日には、外との隔たりなく開放的に使う事も可能であったにも関わらず、このように、明治時代以降に普及した洋風の家の造りと、公と私を分けるといった元々の「日本人独特の概念」が組み合わさった事で、現代の日本の家では、家の造り自体も住まい方も、中と外がはっきり区別されているというのは、少し皮肉な気もします。

ここ1年は、コロナ禍によって、在宅勤務が増えたり、リモート飲み会やオンラインイベントが多く行われる等、ライフスタイルにも様々な変化が生まれてきています。また、自粛生活で家にいる時間が増えている中で、家の中をより快適にするべく模様替えをしたり普段よりインテリアに凝ってみたり、という人も多いのではないでしょうか。

さすがにオランダの様に大きな窓のカーテンを開けっぱなしにするのは、やはり外からの目線が気になるでしょうし、そもそも窓に格子が付いていたり、幅の広い窓台がなく窓辺にあまり物が置けない、といった物理的な違いもあるでしょう。とは言え、コロナ禍のため自宅に居ても、オンラインである程度外との繋がりを持つ事ができる現代の生活の中で、あえて「家」という現実の空間の使い方においても、外との繋がりというものを少しだけ意識してみるのも面白いかもしれませんね。

【写真引用元】※撮影者の許可を得て転載しています。

①三五八屋Facebookページ【358号の車窓から】

②黒シュナ・エマの日記 

著者紹介

吉村 奈穂

大学院で住環境学コースを修了後、不動産系企業に約13年勤務。ソチオリンピックでオランダのスピードスケート選手のファンになった事をきっかけに初めてオランダを訪れ、オランダ文化の魅力に取り憑かれる。その後日本でダッチフラワーアレンジメントのディプロマを取得。スケートを通じて知り合った知人の会社で働くため、2017年2月に渡蘭。現在は一児の母として慣れないオランダでの子育てに奮闘中。

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